噛んで、DESIRE
「それで1ヶ月ほど跡継ぎになるために経営や人間関係云々をしごかれ、なんとか父親に認められたってときに、言ったんだよ」
わたしの頬をさらりと撫でた吾妻くんは、ふっと微笑を浮かべて口を開いた。
「『婚約したい人がいるから、迎えに行っても良いですか』って」
「……あが、つまくん」
「父親には笑われたよ。『おまえが急に跡を継ぐだなんて言うから、そんなところだろうと思った。自由にしろ』ってな」
涙がぽろりと落ちた。
吾妻くんは、自分を変え、わたしを変え、自分の力で人生を豊かにした。
吾妻くんが今日迎えに来てくれたとき、本当にヒーローだと思った。
彼は柄じゃないって言うだろうけれど、わたしにとっての王子さまは彼だけだった。