噛んで、DESIRE
花の香りを嗅いで、ふっと微笑む仕草。
それだけなのに、優雅で美しい。
吾妻くんは華道を習っていたというなら、彼はもしかすると裕福なお家の人なのかもしれない。
でも実家を離れて暮らしていることに、少し親近感を抱いた。
「この部屋、華やかな気分になっていいかも」
「そう、ですか」
「通っちゃうかも。杏莉ちゃんと、花に会いに」
「それは……遠慮します」
「ふは、正直だね」
吾妻くんは、人たらしなのだろう。
夜、綺麗な女の人と歩いているという噂も、あながち間違ってはいなさそうだ。
今夜だって、関わりのある女の人たちに頼めば、一泊くらいさせてくれただろう。
それなのに、吾妻くんは、なぜかわたしの家にいる。
彼にも事情があるのかもしれないけれど、こんなの毎日していられるわけがない。