噛んで、DESIRE



「ん、まあ杏莉ちゃんはそのまえに、もう俺の婚約者なんだけど」

「……気が早いです」

「ごめんね? 俺我慢とか苦手だからさ」

「知って、ます」


彼は可笑しそうに目を細めて、わたしの頬を撫でる。


「あ、ちなみになんだけど」

「……う、なんですか」


吾妻くんは重要なことを平然と言う人だから、構えてしまう。

その予感はバッチリ当たるもので、彼はニコッと笑って口を開いた。


「杏莉ちゃんの父親には俺が留年2回してるなんて言ってないから内緒ね」

「……そうだと思いました」


わかっていたけれど、がっくりと肩を落とす。

うそが上手で狡賢い彼を見ていると、ほんの少しだけ呆れてしまう。



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