噛んで、DESIRE
憤慨するわたしの頭に大きな手をぽんっと乗せて、吾妻くんは笑っている。
こっちは怒ってるというのにドキドキしちゃって、見惚れちゃって、仕方なく怒りを押し込めた。
でもやっぱり釈然としなくて無愛想にクローゼットと浴室の場所を教えると、吾妻くんは口角を上げてうなずいた。
「ありがと、杏莉ちゃん」
そう言い残して、ひらひらと後ろ手を振る吾妻くん。
彼が部屋を出ていくと、途端にどっと疲れが押し寄せてきた。
……どうしてあんなに、自由なんだ。あの人は。
わたしの家なのに、ぜんぜん気が抜けない。
ずっと緊張しちゃうのは、彼が動くたびに煙草の匂いを鼻が掠めるのと、時おり見せるキケンな表情に意識しているせい。
……でも、そう、たった1日だけだ。
1日経てば、もうただのクラスメイト。
だから、今日だけ。
今日だけは、仕方なく、彼への耐性を付けなければならない。