噛んで、DESIRE



……いったん、吾妻くんのことを考えるのはやめよう。

そう心に決め、無心でシチューを煮込む。


ぐるぐるかき混ぜているとなんとか平常心が戻ってきて、ふーっと息を吐いた。

お皿に盛り付けて、付け合わせにロールパンも用意しておく。


そうこうしているうちに、吾妻くんはもうシャワーを浴びてきたようで。


「うわ、うまそー」


呑気な声とともに、リビングへと入ってくる。

嬉しそうに微笑む吾妻くんの瞳は猫目というか、獣目……だなんて思いつつ。

何気なく彼を見上げて、息を呑んだ。


濡れた髪が異常に色っぽくて、目を奪う。

いつもは無造作にセットされている金色の髪が、水分を含んでストレートになっている。



……だめだ、刺激が強すぎる。

見ないようにしようと決意して、目を逸らして彼に声を掛けた。



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