噛んで、DESIRE


吾妻くんは平然とした顔で、シーツの上に広がっているわたしの髪をさらりと撫で、指に絡めて遊び出す。


「杏莉ちゃんの髪、俺と同じ匂いしてる」

「……だって、同じシャンプー使ってます、から」


「そーだね。あと、ベッドからも杏莉ちゃんの匂いする」

「…………だって、わたしのベッド、ですから」


これ以上彼に近づいてはいけないと、頭の中で警報がなっている。

危険度で言えば、すでにMAX。


わたしの鼓動も、びっくりするくらいうるさい。

つまらなさそうにわたしの髪をずっと弄っている吾妻くん。

それに飽きたのか、彼は突如視線をこちらに向けてきて言う。



「なんか俺、うっかり手出しそうなんだけど、どーしたらいい?」


ぜったいそんなこと、美麗に微笑んで言うことじゃない。

ありえない、そう思うのに。


弱々しい声しか出ないわたしは、すっかり吾妻くんの猛毒が回っている。





< 48 / 320 >

この作品をシェア

pagetop