噛んで、DESIRE


困惑して吾妻くんを見上げると、彼は平然とした表情でわたしを見下ろしていた。

もちろん背中には彼の腕が回っている。


……わたしの聞き間違いじゃなかったら、噛むとかなんとか言ってたような気がするけれど。

まさかそんな脈絡のないこと、さすがの吾妻くんでも言うはずがない。



「吾妻くんって……、野生ですか」

「は?」


あまりの困惑にそんな言葉が飛び出したわたしに、彼はパチパチと目を瞬かせた。


……こんな無防備な反応、はじめて見たかも。

だけどキュンとしている場合ではない。


だって吾妻くんは、野生の獣なのだから。


真剣な面持ちで数秒ほど見つめ合ったあと、吾妻くんは突然吹き出して肩を揺らした。



「いや野生はないだろ、野生は」

「だって……っ、吾妻くんが急に噛みたいとか、変なこと言うから」


「しょーがなくね? 衝動的にガブッといきたくなったんだから」

「………………」


「わー、本気で引くじゃん」



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