噛んで、DESIRE


おもしれーおもしれーと肩をさらに揺らす彼に、わたしは拗ねたような表情を浮かべることしかできない。


吾妻くんは、思ったよりもよく笑う。

黙っていたら彫刻のように綺麗だけれど、笑っているほうが、うんと雰囲気が柔らかくなる。


ずっと笑っていたらいいのに、と思いながら頬を膨らませていると、やっと笑いがおさまった吾妻くんが目を細めて言った。



「だめ?」

「だ、駄目です」


「お願い、ちょっとだけ」

「……な、んで、噛むんですか、」



そもそも行動がおかしい上に、わたしと彼はただのクラスメイトだ。

今日やっとまともに話したような、浅い関係。


それなのに吾妻くんは、当たり前のように抱きしめてくるのだからズレている。


< 55 / 320 >

この作品をシェア

pagetop