噛んで、DESIRE
シン、と部屋が静まり返る。
押し返したせいで遠ざかってしまった吾妻くんが、ぽかんとしてこちらを見ている。
それがすごく腑抜けた表情に見えて、思わず吹き出してしまいそうになる。
わたしは怒ってるのに。
でも、わたしは何にこんなに、憤っているのだろうか。
ツンとそっぽを向いて素知らぬふりをしていると、視界の端で吾妻くんは突如起き上がった。
……さすがの吾妻くんも面倒になったかな。
そう思って自分を自分で嫌になっていると。
突如目の前が真っ暗になり、何事かと思った瞬間。
「慣れてないなら、教えよーか。杏莉ちゃん」
わたしの上に、……なぜか吾妻くんが覆いかぶさって美麗な微笑みを浮かべていた。
側から見れば、彼に押し倒されているこの状況。
さっきまで落ち込んでいた気分がめちゃくちゃになり、深く深く溺れていく。