噛んで、DESIRE



「……昨日の深夜も吾妻くんを見たって友達が言ってた」

「うわあ、噂通りの不良だね」

「うん。でもさ、やっぱりクラスの男子とは格別の雰囲気があるから気になっちゃうかも」

「わかる。カッコいいっていうか、美しい。悪いことしてそうなのも沼る」

「そういうこと。まあ、付き合ったら大変そうだけどね。というか、手に負えない?」

「というかぜったい、特定の女の子作らないでしょ。そういうの面倒そうじゃん」



ふたつ後ろのクラスメイトの女の子たちが話しているのが、聞こうとしなくても自然と耳に入ってしまう。


……もしかしたら、吾妻くんにも聞こえてるかも。

本人が聞いたら、嫌な気分になるかもしれない。


そう思っておそるおそる隣を見れば、彼はさきほどと同じように机に突っ伏して寝ていた。



……よかった、聞いてない。

ほっとしたのも束の間、視線を感じてそちらの方向を見れば、吾妻くんが腕の隙間からわたしのことを見ているのに気付いた。


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