噛んで、DESIRE
ちなみに、吾妻くんが残したメモには、彼の電話番号が右上がりの字で書かれていた。
それを見て、昨日の夜話していたときに、彼がラインは使わないと言っていたのを思い出す。
彼いわく、『ライン面倒じゃん。あと、すぐ知らない女の人にばら撒かれる』らしい。
吾妻くんならありえなくない話に思わず口元が引きつったのを覚えている。
彼がいかに遠い存在か、またもや悟ってしまう。
わたしの知らない吾妻くんを知っているひとは、たくさんいる。
いつも適当な返事ばかりで、心の奥で何を考えているか見えない吾妻くん。
でもそんな彼が、いちばん本音でいられる存在でありたいと思った。
彼の電話番号を登録してから、ふうっとため息をついた。
「今日もきっと、……吾妻くんは来ないんだろうな」
いつもは気にしなかった不在を、勝手に想像して残念に思っているわたしは、自分自身でも本音が見えなかった。