噛んで、DESIRE






「杏莉さ、今日ずっと、ぼーっとしてるね」



わたしの目の前で心配そうに手をひらひらさせる澪子に、浮遊していた意識が戻って来た。


「う、……ん。たしかにそうかも」


いまはお昼休み。

結局予想どおり、吾妻くんは学校に来なかった。


昨日の夜から、いっさい顔を見ていない。

授業中もずっと、吾妻くんがいないことに意識が向いて、ぜんぜん集中できなかった。


休み時間もわたしがこんな感じだから、澪子が心配するのも無理はない。



「大丈夫? 寝不足とか?」

「うーん……、よく寝たはずなんだけど」


むしろ、この2日間は深い眠りについている。

吾妻くんに抱きしめられて、安心して寝ているからだなんて認めたくないけれど。


……そしてもちろん、こんなことを心配性の澪子に言えるはずがない。


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