噛んで、DESIRE


本鈴1分前になり、急いで自分の席に戻る澪子を見届ける。


チャイムが鳴って、数学教師である担任の先生が授業を始めようとした、そのときだった。


────ガラッと教室の後ろの扉が開き、何事かと、皆んなの視線が集中する。

わたしも何気なく視線を向けた、のだけれど。



「遅刻」



たったひとこと先生に投げかけて、金髪の彼……吾妻くんが、何か食わぬ顔でわたしの隣に座った。

驚きのあまり、目を見開いてフリーズしてしまう。


だって、今日はもう来ないと思ってたから。

隣の席が空っぽなのを、見つめることしかできないと思っていたから。


いままで吾妻くんが来ようと来まいと、何にも興味がなかったのに。

わたしは至って単純なのかもしれない。




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