リアルに恋していいですか 〜10年ぶりに再会した超国民的スターに執着されています〜
○カフェ(昼)
数日後。菜穂子と美奈は、会社近くの人気のカフェで昼食を食べていた。
テーブルにお洒落な料理が並ぶ。菜穂子はスマホを手に取って画面を確認する。
千晶からのLIME『12:30 おやすみ』
菜穂子のLIME『1:15 おやすみなさい』
日付が変わる。
千晶からのLIME『7:30 おはよう。今日は午後から雨が降るらしいから、傘忘れずにね(絵文字)』
菜穂子のLIME『7:40 折り畳み持ってるから平気よ』
千晶からのLIME『12:00 今、東京に帰った(絵文字)菜穂子は昼食?』
菜穂子はスマホに文字を打ち込む。
菜穂子のLIME『同僚とカフェにいるわ』
フルーツタルトの写真と一緒に送ってすぐに既読がつき、『そのフルーツタルト美味しそうだね。俺も菜穂子とカフェ行きたい』とメッセージが届く。
菜穂子モノローグ【レストランに行った日から、私と千晶は毎日やり取りをするようになった】
菜穂子モノローグ【千晶のおはようから一日が始まって、彼のおやすみで一日が終わる】
菜穂子モノローグ【友達というより、付き合いたてのカップルみたいな……】
いやいや、と首を横に振る菜穂子。
菜穂子は前回レストランで会ったときに、友達に戻る代わりに、人が多いところでは会わないと条件を出したことを思い出す。辺りを見渡すと、大勢の客が食事をしている。
菜穂子(一ノ瀬千晶がこんな人の多いお店に来たらお昼ご飯どころじゃなくなるわ)
向かいに座る美奈は、パスタをフォークに巻きながら、こちらに言った。
美奈「ま〜たスマホ見てる。やっぱり好きな人?」
菜穂子「違うって言ってるでしょ。……幼馴染よ」
美奈「ふうん?」
スマホを置き、イチジクが乗ったフルーツタルトを食べる菜穂子。
今度は美奈もスマホをいじり始め、ある記事を見つけて目を見開く。
美奈「うわぁ、新人アイドルが熱愛発覚だって。プロ意識が足りないって炎上してる」
菜穂子「へぇ、確かこのグループって結成して間もなかったわよね」
美奈「そうそう。時期が悪かったねぇ」
美奈がスマホをかざしてきて、菜穂子も記事を確認する。若い女性と新人アイドルがふたりで手を繋いで歩いているところ、マンションに入っていくところ、買い物袋を両手に持って歩いているところの写真を撮られていた。
美奈「相手は一般人女性だって。半同棲しててスーパーに買い出しデートの写真もすっぱ抜かれてる。これはファンも辛いわ」
菜穂子「…………」
菜穂子(もし私が千晶と一緒にいるところを撮られたら)
菜穂子(きっと炎上する。……千晶がアイドルでいる限りは)
冷たいものが背中に流れ、拳をぎゅっと握る。
悩ましげな表情をする菜穂子に対して、美奈は脳天気な様子で、カフェラテをストローで混ぜる。
美奈「アイドルなら、プライベート管理しっかりしてほしいよね。まぁ大抵の人たちはうまく隠しながら恋愛してるんだろうけど」
美奈「その点、イッチーは本当にすごいわ。十年間もアイドルやってたら一回くらい熱愛出てもおかしくないのに、徹底してる。そりゃファンも増えるよねって。でも実際は女遊びしてるんだろうな〜」
菜穂子はカプチーノのカップを手に持ちながら否定する。
菜穂子「あの人はたぶん、本当に彼女とか作ってないと思う」
美奈「そうなのかな? 夢を与えるだけ与えて自分は我慢するって、なんだか大変だなぁ」
菜穂子「……そうね」
そのとき、後から声を掛けられる。
慶介「あれ、美奈ちゃん?」