リアルに恋していいですか 〜10年ぶりに再会した超国民的スターに執着されています〜

 ○カフェ(午後)

 カフェには人がいない。
 ドアを開けて入店すると、カランとドアベルが響く。
 エプロンを着けた慶介が笑顔で出迎えてくれる。

 慶介「よく来てくれたね。疲れてない?」
 菜穂子「平気です。今日の仕事は午前中だけだったので。こちらこそお休みの日にわざわざお時間いただいて、ありがとうございます」
 慶介「ふ。ご丁寧にどうも」

 菜穂子は持ってきた紙袋を渡した。今日のお礼だ。

 菜穂子「これ、よかったら召し上がってください」
 慶介「気を遣わせちゃって悪いね。ありがとう。あ、この漬け物、僕すごく好きなんだ」
 菜穂子「美奈に教えてもらったんです」

 紙袋の中を見て、ぱっと顔を明るくする彼。
 きょろきょろと辺りを見渡すが、美奈の姿がない。椅子に座って慶介に尋ねる。

 菜穂子「あの……美奈はまだ来てないんですか?」
 慶介「あ、ああ。今日は急用で来れなくなったんだ」
 菜穂子「急用って……」
 慶介「――歯医者に行くんだってさ」

 すると、スマホに通知が来て、美奈からのLIMEが。

 美奈からのLIME『ネイルの予約してたの忘れてた! ふたりで楽しんで!(絵文字)』

 菜穂子(歯医者じゃないし……)
 菜穂子(ふたりきりは気まずいわね。今日は帰ろう)

 菜穂子「じゃあ私も日を改めて――」

 慶介はにこりと愛想よく微笑む。

 慶介「それじゃ、さっさく作ろっか」
 菜穂子「あ……はい。お願いします」

 菜穂子(まぁ、せっかく来たしいいか)


 ○カフェの厨房(午後)

 慶介がエプロンを持ってきてこちらに差し出す。

 慶介「これ使って」
 菜穂子「ありがとうございます」

 菜穂子はエプロンを着けたあと、下ろしっぱなしの長い髪を高いところで縛る。ゴムを口にくわえる色っぽい仕草を見て、慶介がどこか気恥しそうにしている。

 慶介「縛ってると印象が変わるね」
 菜穂子「下ろしていた方が似合いますか?」
 慶介「……いや、どっちもその、すごく素敵だと思うよ」
 菜穂子「ふ。それはどうも」

 髪を縛り終わって手を洗い、慶介の方を見る。

 菜穂子「今日はご指導ご鞭撻のほど、お願いします。先生?」
 慶介「はは、うん。でも気楽に楽しんで」

 ふたりでキッチンに並び、フルーツタルトを作り始めていく。

 慶介「まずはタルト生地から作っていくよ。このレシピに書いてある分量を計って混ぜてくれるかな?」
 菜穂子「はい。先生」

 薄力粉、砂糖、バターを計量器に乗せて計り、ガラスボウルに入れて混ぜていく。

 菜穂子(バターがまだちょっと、固いかも……)

 うまく混ぜれずにモタモタしている菜穂子を見て、後ろで慶介がくすと笑う。
 慶介は菜穂子からヘラを取り上げて、代わりに混ぜる。

 慶介「これは固かったね。僕がやるよ」

 手際よく混ぜられていく生地の様子を、菜穂子は後から眺めて関心する。

 菜穂子「力、ありますね」
 慶介「君よりはあるかもね。さ、次はこの生地を1時間寝かせるんだけど……」

 彼は冷蔵庫の中からボウルにラップがかかったものを持ってきて目配せする。

 慶介「じゃん。寝かせたものがこちらに」
 菜穂子「ははっ、料理番組みたい」

 周到な用意に思わず笑ってしまう菜穂子。菜穂子の笑顔を見て、慶介は嬉しそうに目を細める。
 続いて、生地を型に押し込んで、フォークで穴を開ける。
 生地をまた寝かせる間、トッピングを用意していく。
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