リアルに恋していいですか 〜10年ぶりに再会した超国民的スターに執着されています〜
○カフェのホール(午後)
完成したフルーツタルトを、二人分皿に取り分けてある。
カウンターの席に菜穂子は座り、慶介は立ったまま味見する。
菜穂子はひと口食べたあと、慶介のことを見上げながら目を丸くする。
慶介と菜穂子「「美味しい」」
菜穂子「さすが先生、お店で売れますよ」
慶介「もう売ってるんだよなこれ」
慶介「持ち帰り用に箱に入れといたから。帰るときに持って行って」
菜穂子「ありがとうございます」
タルトをもくもくと食べる菜穂子に、彼が話しかける。
慶介「飲み物を用意するよ。何がいい? なんでもいいよ」
菜穂子「なんでも……」
メニュー表を見て考える菜穂子。
菜穂子「カプチーノをお願いしていいですか?」
慶介「もちろん」
慶介はカウンターの奥に回り、手際よくカプチーノを淹れる。「そこに座って待ってて」とカウンターの椅子に促される。
慶介がカプチーノを淹れる様子を観察する。
白いカップのエスプレッソの中にミルクが注がれていく。慣れた手の動きで注がれるミルクが、洗練されたハートの模様を作り出す。
慶介「はい。完成」
菜穂子「わ……すごい」
カプチーノのカップを出され、そっとひと口飲む。「美味しいです」と感想を伝えると、彼は嬉しそうに口角を上げた。
慶介「あのさ、聞いていいか分からないんだけど、さっき好きな人が訳ありって言ってたけど、既婚者とか?」
菜穂子「いえ、ただ仕事柄、恋愛はタブーで……」
慶介「恋愛がタブーな仕事……。アイドルとか? はは、なんてね。西野さんはアイドルとか興味なさそ――」
するとそのとき、ドアベルがカランと鳴る。
千晶「あれ、今日カフェ休みじゃなかった?」
慶介「休みの日に当たり前のように押しかけてくるのもどうかと思うけどな」
聞き覚えのある声に振り返ると、千晶と視線がかち合う。帽子を被っているが、マスクを顎まで下げていて、はっきりと顔を確認することができる。
千晶も菜穂子の顔を見て目を見開く。
千晶「菜穂子……?」
菜穂子「千晶!?」
菜穂子(どうして千晶がここに……!?)