リアルに恋していいですか 〜10年ぶりに再会した超国民的スターに執着されています〜
〇撮影スタジオ(撮影開始)
スタッフ「一ノ瀬さん入りまーす!」
千晶「よろしくお願いします」
千晶:超国民的アイドル。金髪マッシュで、身長178cm。菜穂子の元カレ。
千晶は菜穂子と対になるデザインのスーツを着ている。
千晶の元に、美奈が駆け寄って事情を説明する。
美奈「千晶さんすみません。実は相手役の予定だったモデルの安藤さんが本日体調不良で来られなくなってしまって……」
千晶「そうなんですね。体調、心配ですね。ゆっくり休んで早くよくなってほしいです。それじゃあ、撮影の方は?」
美奈「はっはい! このまま進行します。こちらで代役を用意いたしましたので、よろしくお願いします……!」
千晶が爽やかな笑顔を浮かべる。
千晶「分かりました。こちらこそよろしくお願いします」
彼の眩しすぎる笑顔に目を眇める美奈。
美奈(眩しっ、これが、本物のアイドルスマイル……。眼福……!)
そこに、衣装に着替えた菜穂子がやって来る。美奈がぐいっと腕を引っ張って、千晶に菜穂子のことを紹介する。
美奈「菜穂子! こっちこっち! ――彼女が代役の西野です」
千晶「……!」
千晶は菜穂子を見て目を見開き、驚いて言葉を失っている。
菜穂子は冷静な様子でお辞儀をして挨拶する。
菜穂子「西野菜穂子です。本日はよろしくお願いします」
千晶「あ、ああ。うん。……よろしく」
千晶ははっと我に返り、一礼するのだった。
撮影が開始し、白いバック紙の前に千晶と菜穂子は並んで座る。手を重ねる仕草、ハグをした体勢、肩をくっつける体勢、など近い距離感で写真を撮られていく。
菜穂子(よりにもよって、恋人特集なんて……)
菜穂子の眉間にシワが寄り、表情が強ばっているのを見て、千晶がそっと耳元で呟く。
千晶「表情、硬すぎ。もっとリラックスして。今は俺の恋人でしょ?」
菜穂子「…………」
彼に言われて、わずかに表情を和らげると、彼も愛おしそうに目を細め、熱を帯びた表情でこちらを見つめた。
カメラマン「おっ、いいねー! その表情。本物の恋人みたいだ」
顔を見合わせる菜穂子と千晶。
菜穂子(みたいも何も――)
菜穂子(元カレです)
千晶(元カノです)
菜穂子モノローグ【恋愛報道が一切出ないプロ意識の高いアイドル一ノ瀬千晶。実は女性に興味がないのではないかと言われたりしたが、それはない。なぜなら、私は彼と10年前に――付き合っていたから】
スタッフ「一旦休憩入ります!」
千晶とひと言も交わさずに立ち上がってその場を離れる。彼の元にはヘアメイク担当が駆け寄り、前髪を整え直している。
菜穂子の方も、メイク担当が化粧を直すために歩み寄り、口紅を筆で塗り始める。
そのとき、千晶と視線がかち合う。彼は何とも形容できない表情でこちらを見ていた。切なげで、昔を懐かしむような、そんな表情。