リアルに恋していいですか 〜10年ぶりに再会した超国民的スターに執着されています〜
○菜穂子のアパートの部屋(朝)
スマホのアラームが鳴って、目が覚める。
アラームを止めて、菜穂子は半身を起こした。
菜穂子(夢……か)
テレビをつけると、朝の番組に千晶が出ていて、ドラマの宣伝をしていた。
テレビの中の千晶「毎週月曜夜9時に放送中です。ぜひご覧ください」
キャスター「よろしければ、朝からキュンとするひと言、いただけますか?」
千晶「はは、分かりました」
千晶は両手を広げて目を細める。
千晶「何? 俺とハグしたいの? いいよ。――おいで」
キャスター「ありがとうございます……! これは画面の皆さんも相当キュンとしているのではないでしょうか!?」
テレビの前の菜穂子(←図星)は真顔で画面を見つめる。
時計の針が出発の時間を示しているのを確認し、テレビの画面を消して、荷物を持って出かける。
テーブルの上には、置きっぱなしの財布が。
○駅の改札前(朝)
鞄の中を漁り、焦る菜穂子。
菜穂子(パスケースがない……。どこかで落とした? 財布までないなんて最悪)
菜穂子(まずは会社に連絡して一旦家に――)
踵を返そうとすると、後ろから千晶に声をかけられる。
千晶「探してんのって、これ?」
菜穂子「!? ち、ちあ――」
千晶「しっ」
人差し指を菜穂子の唇に押し当ててくる千晶。菜穂子は頷く。
千晶は深くフードを被って、サングラスをかけて顔を隠している。
菜穂子「それ、どうしたの?」
千晶「定期、昨日話してるときに落としてったよ。これないと通勤困ると思って届けに来た。電車通勤って言ってたから」
菜穂子「わざわざ届けに来てくれてありがたいけど……。さっき、朝の情報番組に出てたじゃない。あれ、生放送でしょ?」
千晶「うん。でもテレビ局がたまたまこの近くだったから」
菜穂子「そう。迷惑をかけたわね」
手を伸ばして定期を受け取ろうとすると、すっとかわされる。
菜穂子が手を伸ばして、千晶が上にかわす。その攻防が何度か続いたあと、菜穂子は眉をひそめる。
菜穂子「ちょっと、何!? 届けに来てくれたんじゃなかったの?」
千晶「うん。でもこれを渡す代わりに――連絡先教えて」
菜穂子「!」
一歩後ろに下がり、警戒する菜穂子に彼が言う。
菜穂子「断るわ。千晶に連絡することなんてもうないし」
千晶「じゃあ定期、返さないけど。会社遅刻してもいいの?」
菜穂子「なっ!?」
菜穂子(私のこと脅してるの!?)
菜穂子(ああもう、急いでるのに……!)
しかし、腕時計を確認すると、出勤の時間が迫っている。
菜穂子「……連絡先教えたら、それすぐに返しなさいよ」
千晶「うん」
鞄からスマホを取り出して、LIME(LINE)を交換する2人。
菜穂子はスマホを鞄にしまい、パスケースをばっと奪い返す。
菜穂子「それじゃ、行くから。助かったわ」
千晶「行ってらっしゃい。またね」
手を振ってくる千晶を尻目に、改札を通る。ホームに向かいながら菜穂子は思う。
菜穂子(またねって……。私はもう会う気ないけど)