リアルに恋していいですか 〜10年ぶりに再会した超国民的スターに執着されています〜


 ○会社(午前中)

 カタカタとパソコンを打ち、難しい顔をしている菜穂子。

 美奈「菜穂子、何かあった?」

 キーボードを打つ手を止める。

 菜穂子「どうして?」
 美奈「だってここ、シワ寄ってる。すごい険しい顔」

 美奈は自分の眉間をつんと指差して、起こったような顔の真似をする。
 菜穂子は小さくため息を吐き、「別に何もない」と言う。そのとき、スマホの通知音がピコンと鳴る。
 慌てたような仕草でスマホの画面を確認する菜穂子に対して、美奈が言う。

 美奈「それに、朝からずっと携帯気にしてる。もしかして、これ?」

 親指を立てて、男ができたのではないかと詮索してくる彼女。

 菜穂子「違うわよ。……全然」

 スマホの画面に映るのは、千晶からのLIMEメッセージ。

 千晶のLIME『今日の夜、一緒に食事に行かない?』

 菜穂子はぽちぽちと片手でメッセージを入力する。

 菜穂子のLIME『行きません』
 千晶のLIME『じゃあこの写真も要らない?』

 菜穂子(写真……?)

 千晶から画像が送信されてきて、菜穂子はがたんっと椅子から立ち上がる。
 送られてきた写真は、LiLi2のメンバーが全員写っている写真。
 菜穂子はパスケースの中に、LiLi2の集合写真を入れていたことを思い出して青ざめる。

 隣のデスクから、美奈が顔を見上げる。

 美奈「どした? 今度は顔真っ青だけど」
 菜穂子「…………」

 菜穂子はそっと椅子に座り、スマホに文字を入力する。

 菜穂子(あの写真、100枚限定のレア品なのに……)
 菜穂子(わざわざ抜き取っておいて交渉の材料にするなんて……卑怯なんだから!)
 菜穂子(写真一枚くらい、諦めるのよ、そう。諦めて……)

 無言でスマホを操作する菜穂子。

 菜穂子のLIME『分かった。行くから場所を教えて』


 ○ビルの上階の高級なレストラン(夜)

 千晶が用意したのは、夜景が綺麗な個室だった。個室だから、千晶は変装をしていない。
 続々とお洒落なフルコース料理が運ばれてくる。柔らかい煮込み肉を、ナイフとフォークで慣れた所作で食べるふたり。

 菜穂子「…………」
 千晶「…………」

 菜穂子は視線を少し上げて、千晶に言う。

 菜穂子「例のものは、ちゃんと持ってきたんでしょうね」
 千晶「うん。ここに」

 千晶は懐から一枚の写真を取り出す。
 菜穂子は写真を取り返して、鞄の中のパスケースにしまった。

 菜穂子「食べ終わったらすぐに帰るから」
 千晶「その写真を持ってるってことは、LiLi2(俺ら)のこと好き……なの? これ多分、あんまり手に入らないやつだと思うんだけど」

 菜穂子は肩をすくめる。
 千晶は頬杖をついてからかうように笑う。

 千晶「誰推しとかある?」
 菜穂子「……グループのことは、応援してる。一応は知ってる人が所属してるグループだしね」(※本当は千晶リア恋オタク)
 千晶「ふうん、そっか。嬉しいな」

 千晶は鞄から手帳を取り出し、その中から一枚の写真を抜き取った。
 それは、菜穂子と千晶の幼少期のツーショット写真。菜穂子の実家の部屋で、ふたりは積み木で遊び、楽しそうにピースをしている。

 菜穂子「そんな昔の写真、よく取ってあるわね」
 千晶「俺の宝物。菜穂子と初めて会って遊んだ日に、お前のお母さんに撮ってもらったんだ。覚えてる?」
 菜穂子「覚えてる。千晶が私のマンションの部屋の隣に引っ越して来て、うちで遊んだのよね」
 千晶「そうそう。これ面白いのが、菜穂子のお母さん、俺のこと女の子だと思ってたんだよな」
 菜穂子「ふっ。千晶は昔、女の子みたいに可愛かったからね」
 千晶「今も可愛いでしょ?」

 テーブルの向かいで、千晶があざとい愛嬌ポーズをして媚びてくる。(例:猫の手ポーズ、虫歯ポーズ、など)

 菜穂子(可愛い……。――と思ってしまうファン心理が悔しい……!)

 菜穂子は何かに耐える口を押さえて、顔を伏せる。

 菜穂子「はいはい、とっても可愛いわよ国民的アイドルさん」
 千晶「まさか、菜穂子に推してもらえてるなんて思わなかったな」
 菜穂子「私が応援してるのはLiLi2だから。それに……ファンだったら、なんだって言うの?」

 千晶は困ったように笑う。
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