【完結】好感度-100から開始の乙女ゲーム攻略法 〜妹に全部奪われたので、攻略対象は私がもらってもいいですよね〜
太い幹に手をかけて、足の力で軽々とよじ登っていく。ルサレテのことを不審がっていた生徒たちだが、子猫救出のために体を張る様子を見て、懐疑心は応援に変わった。
「頑張れー!」
「あと少しよ!」
下から応援の声が聞こえてくる。応援に励まされながら子猫がいる高さまで登り、手を伸ばして宥めるように声をかける。
「ほうら。もう大丈夫よ。こっちへおいで〜」
ゆっくりと近づいてきた子猫の体を腕で抱き抱える。あとは降りるだけ。そう思ったとき、下から怒鳴り声が聞こえた。
「そこで何をしている!」
突然怒られて驚いたルサレテは足を滑らせ、猫を抱き抱えたまま下にずり落ちる。
「きゃっ――」
柄でもないことをするものではないと、本日二度目の浮遊感に包まれながら反省する。
せっかく怪我が治ったのに、今度はどこかの骨が折れるだろうか。足? それとも腕?
ぎゅっと目を閉じて覚悟したが、予想していたような衝撃はなく、代わりに柔らかいクッションの上に乗っていた。いや、こんな場所にクッションが落ちているはずがない。そう思って恐る恐る視線を下に落とすと――下敷きになっているロアンと目が合った。
ロアンが下敷きになってくれたおかげで、ルサレテはどこも打ち付けることがなかった。しかし、彼の方は尻もちをついた体勢で、ルサレテの体を支えていた。そして、もう少し近づいたら顔のどこかが触れてしまいそうな距離に彼の顔がある。
「重い。早くそこを退いて」
「ひっ、ご、ごめんなさい……!」
ロアンは本来優しくて紳士的な青年だ。決して女性に「重い」なんてデリカシーのないことを言う人ではないので、余程嫌われているのだと分かる。
(私……太ってはないと思うけれど)
慌てて彼から離れるが、ロアンの好感度メーターは-105になってしまった。
(あああ、嘘…………。また下がった……)
ロアンは腰を擦りながら立ち上がり、こちらを冷たく見下ろした。
「貴族の令嬢が木の上で何を?」
そう尋ねられ、両腕の中に隠れていた子猫を差し出す。にゃーと愛らしく鳴いた子猫を見て、木の上の子猫をルサレテが助けていたのだと理解した。
ルサレテは子猫を逃がし、女子生徒に預けていた紙袋を返してもらった。