【完結】好感度-100から開始の乙女ゲーム攻略法 〜妹に全部奪われたので、攻略対象は私がもらってもいいですよね〜
ルサレテは広間のバルコニーで頬杖を着き、使用人たちが荷馬車から屋敷に荷物を運ぶ様子を眺めていた。
荷馬車には、ペトロニラの取り巻き令息たちの実家の家紋が描かれており、これらの大量のプレゼントは彼らが用意したものだと分かる。
ちなみに広間では、ペトロニラを例の美男子たちが囲み、蝶よ花よともてはやしている。
果実水が入ったグラスを片手に、バルコニーでひと休みしていると、後ろから声をかけられた。
「僕もご一緒しても?」
振り返ると、そこにやって来たのはペトロニラの取り巻きのひとり――ロアン・ミューレンスだった。
すらりとした長身に、金髪緑目の儚げな雰囲気の青年。容姿、身分ともに非の打ち所がなく、言わずもがな女性たちから大人気だ。
「……構いません。どうぞ」
「ありがとう」
バルコニーはそう広い空間ではないため、近い距離に二人が並ぶ形になる。
庭園を眺める横顔も綺麗なのかとこっそり盗み見ようとしたら、彼の顔色が随分悪いことに気づいた。額は脂汗でびっしょりで、呼気が荒い。視線を少し下に落とすと、指先も震えていた。
「もしかして、体調が悪いですか? 飲み物を持って来ます。あとは椅子も。それとも医務室に案内しま――」
「いや、大丈――ぶ、げほっ、げほ……っごホッ」
医務室に案内しましょうかと言いかけたそのとき、彼は苦しそうに咳き込み始めた。身分が上の、それも異性である彼に触れるのは不敬だと分かってはいたが、無意識に背中を擦る。咳はしばらくして治まったものの、口を抑えていたロアンの手のひらに血が付いていた。
(血を吐く咳は……よくないと聞いたことがある)
ルサレテはハンカチを取り出して、唇に付いている血をそっと拭ってやる。手を拭くようにとハンカチをて渡せば、彼は決まり悪そうに言った。
「このことは……誰にも言わないでくれるかな」
「分かりました。……お医者さんには診ていただいているんですか?」
「うん。でもこれはもう――治らない病気なんだって。人より長くは生きられないとはっきり言われてる」
困ったように笑うロアン。
お辛いですねと言うのも、頑張ってと言うも違う気がした。何も言わないのが正解かもしれないが、ルサレテは口を開く。
「では、何かとっておきの奇跡が起こるようにお祈りしますね」
「!」
にこりと微笑みかけると、彼の緑の瞳の奥がわずかに揺れた気がした。
「君は……病気を知ってもそうやって笑顔を向けるんだね」
「申し訳ありません! 無神経ですよね……」
「いいや、違うんだ。その方がいい。皆、腫れ物に触るみたいに接してくるから」