【完結】好感度-100から開始の乙女ゲーム攻略法 〜妹に全部奪われたので、攻略対象は私がもらってもいいですよね〜
「そうね。あなたの言う通り、私には可愛げも愛想もないのかもしれない。でも、それでも、好きだと言ってくれる人もいるんです。私にだって、相手を選ぶ権利があります! 少なくとも、私の尊厳を傷つけたあなたとは結婚できません」
「そういうところが、昔からいけ好かないんだ……!」
「ジェイデン様に好かれなくても結構!」
すっかり揉め事に発展したそのときだった。
「――俺の婚約者に勝手に触れないでくれるかな」
低く透明感のある声が、耳を掠める。ロアンがルサレテの腰を抱き寄せて、ジェイデンのことを目線で牽制していた。
ルサレテはロアンの腕の中でこてんと首を傾げる。
「「俺の婚約者……?」」
ルサレテの復唱する声は、ジェイデンと重なった。
はてさて、自分はいつの間に筆頭公爵家の嫡男であり、麗しの令息の婚約者になっていたのだろうか――と。
「あの、私はロアン様の婚約者では――むぐ」
想いを通わせてはいるものの、まだ正式に結婚するという約束を結んでいる訳ではない。至極真っ当な指摘をしようとするが、ロアンに口を手で塞がれる。彼はそっと耳打ちして、話を合わせるようにと呟いた。
(な、なるほど。ジェイデン様を追い払うための演技をしろということね)
ジェイデンを追い払うための方弁なのだと理解したルサレテは、ロアンの胸元に手を添えて、甘えるような仕草で擦り寄る。
するとロアンは、びっくりしたように小さく肩を跳ねさせ、頬を朱に染めた。
一方のジェイデンは、あんぐりとしていて。
「ル、ルサレテがロアン様の婚約者……!?」
ロアンは女性たちの憧憬を集める国随一の公爵家の跡取り。相手は選び放題なはずなのに、どうしてルサレテなのか、という驚きだろう。
「信じられません。だいたい、あなたこそずっと、ペトロニラに好意があったのでは……?」
「親しくしていたし……妹のように思っていたよ。以前はね。でも恋心を抱いたのは、後にも先にもルサレテだけだ」
そんな風に耳元で喋るので、ルサレテの顔が耳まで赤くなる。
嫁の貰い手はないとついさっきまで見下していたジェイデンは、悔しそうに顔を歪ませた。そんな彼に、ロアンが鋭い眼差しで追い打ちをかける。
「早くここから消えてくれるかな。俺は婚約者を侮辱されて今とても機嫌が悪いんだ。今後二度と彼女に近づくな。今回は目を瞑るけど――次は容赦しないから」
「…………っ!」
とうとうジェイデンは、不服そうにこちらを一瞥してから、逃げるように去って行った。ロアンがはっきり念押ししたので、今回のようなことは彼もしないだろう。
しかし、ジェイデンが帰って行っても、ロアンは腕の中からルサレテを解放してくれなかった。
後ろからぎゅうとこちらを抱き締めたまま、切なげに言う。
「もう少しだけ、このままでいてもいいかな。君が嫌でなければ」
「……嫌では、ないです」
「こういう言い方はよくないかもしれないけど、あんな男、別れて正解だったよ。君にはふさわしくない」
「ロアン様、どこから話を聞いていましたか?」
「……花束の辺りからかな」
というと、ほぼ全部だ。ルサレテの家族や婚約者が、長い間妹びいきで、ルサレテのことを可愛くないと蔑ろにしていたことも知られてしまったのだろう。
ロアンは、ルサレテがなかなか講堂に来ないので、心配して授業を退出したのだと説明した。
「俺にとってルサレテは、世界で一番可愛い女の子だよ」
「……ありがとう、ございます。俺の婚約者って言ってくださったの、嘘でも嬉しかったです」
「今は嘘だけど、俺は本当になってほしいと思ってるよ。ルサレテ……俺と結婚してくれないかな?」
「!」