星川学園にようこそ!

入学式9

 そして、軽やかで楽しい音楽がかなでられた。音がきれいで、広い中庭でもよく通る音色。桃山先輩もびっくりして、口が漢字の一みたいな形になっている。
「おもちゃの兵隊のマーチだ」
 私は曲名をつぶやく。テレビのクッキング番組のときにも流れる有名な曲だ。私も、フルートの楽器教室に通っていたときに演奏したことがある。
 りっかちゃんも好きだった曲のひとつだ。
「何だ?」「あの子、トランペットうまくない?」「なんか楽しそー」
中庭にいる新入生たちも、ほだかくんのトランペットに夢中になっていた。
 たくさんの人に注目されても、ほだかくんはトランペットの演奏を続ける。緊張するどころか、ピストンを押す指が軽やかだ。
 曲が終わる。ほだかくんがマウスピースから口をはなすと、まわりの人たちが拍手した。
 私はぼうぜんとしていたけど、あいちゃんがひじをつついてきた。
「どう? 兄さんのトランペット」
「すごいすごい。あんなに上手な子、めったにいないよ。びっくりしちゃった」
「でしょー」
 あいちゃん、じまんげに腰に手を当てている。
「どこかで習っていたんですか?」
 私はめぐみさんに聞いてみる。
「前の街では楽団にいて、大人たちといっしょに演奏会に出たりしたのよ」
「大人たちといっしょにって、すごいですね」
 あんなにうまいのも納得だ。
「それにね……」
 あいちゃんが何か言いかけたけど……
「わーーーー! えーーーー! きみがあの鈴森ほだかくん⁉」
 桃山先輩のさけぶ声で、私もあいちゃんもびくってなった。
「今朝いきなり入部届を提出した、ウワサの新入部員第1号。でもって、全国管楽器コンクール小学生部門トランペットソロ部門で金賞を受賞した、あの有名な……まさかと思っていたけど、こんなところで会ってしまうとは」
 全国管楽器コンクールって、全国から何百人もの子が参加して、厳しい予備審査を受けて、本選に残るだけでも10人いるかいないかっていう、ものすごく狭い門だよね。それを金賞って。
「……あいちゃん、今の話って本当?」
「ホントだよ」
 子ねこみたいな見た目がかわいいと思った新入生。明るくて妹思いなのがすてきな、普通の中学生だと思っていたほだかくんが、実はそんな雲の上の人だったなんて。
 どうしよう。私、いっしょに写真までとっちゃったよ。
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