青春は、数学に染まる。
第一話 噂の「かっこいい」先生
入学式
憧れの高校生。
憧れの電車通学。
制服の可愛さだけで選んだ隣の市にある
『県立桜川高等学校』。
基本的に勉強は嫌い。
普通に楽しく過ごせたらそれでいいかな…。
そう思いながら、入学式に望んだ。
私、藤原真帆。今日から高校1年生。
「みなさん、ご入学おめでとうございます」
入学式ではあまり集中できず、思わず周りを見渡す。
壁際に立っている先生たち。パッと見回す感じ、年齢層は広そう。
その日の放課後、クラスの女子が「かっこいい先生がいる」と噂していた。
伊東和樹先生、と言うらしい。
伊東先生は数学教師。
でも、1年生の担当ではないみたい。
部活動の顧問もしていないらしく、1年の間は接点を持つことはなさそう。
機会があれば姿を見てみようかな。
心の奥で密かにそう思う。
…別にかっこいい人が好きなわけでは無いけど、そんな噂を聞くとやはり気になるものだ。
「真帆~。帰ろう」
「うん」
親友の的場有紗。小学校からずっと一緒で、高校も同じところを選んだ。
「ねぇ有紗。かっこいい数学の先生がいるんだって」
「え、なになに? 気になるの?」
「少しね」
部活動の勧誘をしている先輩たちが階段や廊下に立っている。
渡されるチラシを受け取りながら、昇降口へ向かう。
「真帆ったら、好きになる人は必ず先生なんだから…。気を付けてよ!」
「言い方…。これまで好きになった人が、たまたま先生だっただけ」
実は…先生好き、常習犯。
中学校ではお父さんと同じくらいの年齢の先生のことが好きだった。
今はもう思い出したくもないけども。
「先生という立場の人なら誰でも良いってわけじゃないよ。好きになった人が先生だっただけ。…ただ中学の時に好きだった先生は血迷っていたけどね。今では笑い話だよ」
「あはは、あの時は応援していたけどさ。私も血迷っていたに違いないね。今考えたらあんなオジサン釣り合わないよ!! 真帆が夢から醒めて良かったぁ!!」
そう言って笑い合う。昇降口に着く頃には両手がチラシでいっぱいになっていた。
「真帆は部活何に入る?」
「うーん。私は入らないかな。折角こんなにチラシ貰ったけど、さっさと家に帰って寝たいし」
この学校は帰宅部が存在する。実は帰宅部があるからここを選んだ…というのもある。
中学校ではパソコン部に入っていたけど、高校ではもう良いかな。
「家に帰って寝たいなんて、真帆らしいね!! 私はね、空手部に入ろうと考えているよ」
「高校でも空手部!? さすが有紗!!」
有紗は小さい頃から空手を習っていて、今は黒帯の有段者。小学校では地域の空手クラブに所属し、中学では空手部だった。高校でも空手部に入ろうと考えているなんて凄いよ。帰宅部なんて堂々と言った私が恥ずかしい。
「真帆と帰るタイミング合わなくなるね」
「テスト期間とか、タイミング合う時は一緒に帰ろうよ!」
「もちろん! そうしよう!」
昇降口から外に出ても勧誘中の先輩方がずらりと並んでいる。
この学校は部活動が盛んなのかな。
ここで始まる新しい学校生活。有紗と一緒なら…何も不安なことは無い。
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