青春は、数学に染まる。

昇降口で靴を履いていると、後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

誰なのかは声で分かる。



「追いつかれちゃう」

私は大急ぎで昇降口を飛び出した。





その後正門も飛び出し、長い下り坂もひたすら走る。
帰宅部の帰宅時間は過ぎ、部活所属者は活動中。道に生徒は誰もいない。


「っあ!!」


坂を下りきった場所で足が絡まり思い切り転んだ。

「っ…」

(ひざ)()れて血が出ていた。





本当に今日はついていない。数学は7点、意識を失って、早川先生に抱き締められて、伊東が早川先生を殴るところを見てしまって…最後はこれ。





「帰らなきゃ」

血が流れる場所に持っていたタオルを巻いた。
いつも駅まで徒歩だが、今日はバスに乗ろう…。



念のため学校前にあるバス停はスルーして、次までゆっくり歩く。

そう遠くはない。






次のバス停に着き、私はベンチに座った。そこでやっと心を落ち着けることができた。

「……はぁ…」


ズキズキと痛む(ひざ)。さっき巻いたタオルには血が(にじ)んでいる。



「どうしてこうなるんだろう。…有紗…」




親友の名を呼ぶと、涙が(あふ)れて止まらなくなった。





 
< 32 / 91 >

この作品をシェア

pagetop