青春は、数学に染まる。
真帆と神崎くん
次の日の3限目。
授業は情報。パソコンを使うということでコンピュータ室に移動だ。
「私、パソコン嫌だなぁ。全然分かんないもん」
「パソコンは覚えれば楽しいし便利だよ」
実はパソコンが趣味な私にとって楽勝なこの時間。待っていました!!
「真帆は得意だから良いよねぇ。今度教えてよ!」
「もちろん! 有紗ならいくらでも!」
「へぇ、藤原さんはパソコンが得意なんだ。俺にも教えてよ」
「え?」
「え!?」
私と有紗の後ろに神崎くんが立っていた。
「昨日の補習さぁ、早川に追い出されたやつ納得いかないんだよね。あれ教師のすること?」
「………」
「え? どういうこと?」
何も知らない有紗は私と神崎くんの顔を交互に見る。
「ま、まぁ。あれじゃない? 数学科準備室で雑談していた私たちも悪いけど……ねっ!」
上手く弁解ができない。自分が何を言いたいかも分からない。
「別にどうでも良いけどさ。とりあえず今日からの補習、俺は伊東らしいよ。早川逃げたとしか思えなくない?」
昨日、伊東先生に任せましょうと言っていたが、本当に実行したんだ。
まぁ、早川先生の心情を考えれば妥当かもしれない。
「早川先生は逃げたんじゃなくて、神崎くんがあんなこと言ったからじゃない? 先生だって、人間なのだから」
つい口調が強くなるのが自分でも分かる。
そして横で有紗がオドオドしながら黙って様子をうかがっていた。
「藤原さんは早川を庇うのか。優しいんだね」
「少なくとも神崎くんのことよりも早川先生のことの方が知っているから」
「藤原さんいつも補習受けていたもんね。赤点とは言え真面目で凄いよ! ……俺さ、益々藤原さんのことが気になってきた。だから付き合おうよ」
本当に軽いなぁ。そして私の意思は全く尊重しないよね。
「神崎くんって軽いよね。昨日初めて会話したのに、普通はそんな発想にならないよ」
「そうなの? 他の女の子たちは喜ぶんだけど」
「私はそんな軽い女じゃないの」
「へぇ。藤原さんは固いんだね」
そんな会話をしているとコンピュータ室に着いた。
「じゃあ、また補習で」
神崎くんは一足先に部屋へ入って行った。
「……真帆、アイツ一発やっとく?」
さっきまでオドオドしていた有紗は消え、今は怒りのオーラを醸し出していた。
「何なのあれ!! 軽すぎにも程があるでしょう! 真帆の事をなんだと思っているの!?」
「ああやって適当に彼女作っているんだろうね…」
神崎くんとはタイプが違い過ぎて行動が何一つ理解できない。
関わりたく無い。率直にそう思った。
「真帆もさ、彼氏がいるって言いなよ!!」
「いや、言えないよね」
相手は早川先生だよ? 言えるわけが無い。
「とにかく…アイツ許せないわ。ムカつく!!」
コンピュータ室を覗くと、神崎くんはイケイケ系女子たちに囲まれていた。
あの集団怖い。
何であの集団の中心にいる人が私なんかに構うのだろうか。
昨日、私から話し掛けたことを激しく悔やんだ。
「真帆! 私、先に行くから!!」
「え?」
その後、授業が終わると有紗は一目散にコンピュータ室から出て行った。
「有紗……」
何かあったかな? そんなこと考えながら教室へ戻る。
帰りは早目に移動をしたことによって、神崎くんに話しかけられることなく済んだ。