青春は、数学に染まる。

終礼が終わり、私は急いで荷物を片付けていた。
神崎くんより先に行かなきゃ。そして、早川先生に神崎くんのことを話すのだ。

私から少し離れた位置に神崎くんはいる。また女の子たちに囲まれて会話を楽しんでいるみたい。

「真帆、先生に良く言いなよ。補習別々にしてもらうとか、色々方法はあるし、先生も何か考えているはずだから」
「うん、そうだね。今日のこともちゃんと話すよ」
「そうそう、その意気! じゃあまた明日ね」
「バイバイ」

有紗は手を振りながら走って部活に向かって行った。

本当、部活が楽しみで仕方ないという気持ちが滲み出ている。
楽しそうで私も嬉しい。

「よし、私も行くか」


鞄を持って教室から出ようとすると、校内放送がかかった。

『1年2組、藤原さん。1年2組、藤原真帆さん。至急、職員室まで来てください』
「え?」

その放送を聞いて教室から飛び出す。




この声は早川先生だ。何で校内放送?
廊下を足早に進んで職員室を目指した。



職員室の前に着くと、早川先生は廊下の窓にもたれ掛かって立っていた。

「藤原さん」
「先生、何で校内放送するんですか…」
「その方が、手っ取り早いと思いませんか?」
「手っ取り早い…?」

ちょっと言っている意味が分からない。

「まぁ、そんなことは良いのです。それよりこちら。今日のノルマです」

そう言って先生はプリントを渡してきた。そしてその上には「空き教室①」と書かれた鍵が乗っている。

「ん?」
「先に行ってやっておいてください」

ニコっと一瞬だけ微笑んで、早川先生は職員室に戻って行った。

「え、先生…」

早川先生も職員室に居ることあるんだなぁ…。
職員室の机に座っている姿は何だか新鮮だった。




しかし…。鍵が乗っているということは、数学科準備室ではなくて『ここに行け』ということだろう。


私はゆっくりと空き教室棟を目指した。






渡り廊下を歩くと、吹奏楽部が練習している音が良く聞こえてきた。

音出しをしているのかな。



やっぱり、生まれ変わったら管楽器の勉強をしたいと思う。
現世では…もう遅いよね。



そんなこと考えながら歩き続ける。
渡り廊下を歩き切ると空き教室棟だ。

棟に入るとやはり人気は無く、静かな空気が漂っていた。





 早川先生から渡された鍵で教室を開け、中に入る。
 この教室は、早川先生との思い出と伊東との記憶が蘇ってきて複雑だ。

「しかし…先生、どうしたのかな」

そう呟きながら受け取ったプリントを見る。



………うん、脳がショートしそう。


数式を見ると拒絶反応が起きて、脳が勝手にシャットアウトする。


こんなの1人では出来ないよ!




私は机に伏せながら小説を読み始めた。
最近お気に入りの携帯小説。現実では有り得ないようなストーリー展開が面白い。




しかし読んでいると今度は眠くなってきて、いつの間にか私の意識は夢の中へ入っていった。









 
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