青春は、数学に染まる。

別れ


「藤原さん!」
「え!!!!!」


名前を呼ばれ、体が跳ねる。


「嘘!!」

ヤバい! 爆睡していた!!
勢いよく起き上がると目の前に早川先生が立っていた。


「おはようございます」
「お、おはようございます…すみません」

早川先生は手付かずのプリントに目を向けた。



そう言えば、解けないと思ってすぐに諦めて小説を読んでいた。
そしてそのまま眠くなったのだった…。


「ご、ごめんなさい。解いていません」

私は散らかったプリントをかき集めてまとめる。
早川先生は微笑みながら隣の席に座った。

「大丈夫です。僕は藤原さんが解けるとは1ミリも思っていませんから」
「ひどい!」

わざとらしく腕を組んで早川先生を見る。



そんな先生は、微笑みながら泣いていた。




「…え、何で!?」
「…ごめんなさい」



拭えば拭うほど零れ落ちる涙。



「どうしたのですか…」





職員室で会った時は普通だった。


あの時から今ここに来るまでの間に何かあったのは間違いないだろう。






早川先生は眼鏡を外して真っ直ぐ私の方を見た。


「藤原さん、僕は貴女の気持ちも考えずに最初から抱き締めたり、頭を撫でたり…本当につまらない教師でした。藤原さんが僕の事を好きになってくれて少しでもお付き合い出来たこと、嬉しく思います」

「え、急に何ですか…」

「ただ、僕は未熟でした。僕から好きになり、藤原さんに沢山思いを伝えて今があるのに…。我儘(わがまま)な僕を許してください。一度、普通の教師と生徒に戻りましょう」




「…………は?」



本当に早川先生の言っていることが理解できなかった。どういうこと?



「僕は、教師として…藤原さんの人生を考えなければならない立場です。僕のせいで、藤原さんの人生を壊したくないです」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。私の思いは聞かずに先生が1人で決めたってこと? え、ここでも私の意思は無視ですか? この数学補習同好会が設立されたときもそうでしたけど、私の感情は無視ですか?」

喋っていると胸が苦しくなって涙が溢れてきた。

「おかしいでしょう!! 先生のせいで、私はこんなにも先生の事を好きになったのに!! どうして、本当に意味わかんない!! 今更教師も生徒も無いよ!!! 元々そんなの、覚悟の上じゃない!!! 先生はその覚悟も無く、安易に思いを伝えて来たということ!?」


衝動的に体が動く。私は鞄を持って教室から飛び出した。


「あ、真帆さん!」

何で名前…!!
その声を聞いて更に涙が止まらなくなった。





急展開過ぎて、思考が追いつかない。
さっき職員室で会った時、そんな予兆あった?



おかしくない…?
あの短時間に何をすればそんな思考になるの?


「本当に意味わかんない。先生の馬鹿…」






結局、早川先生と恋人期間だったのは、たった1ヶ月だった。




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