青春は、数学に染まる。
(side 伊東)
タイミング良く、藤原に遭遇する。
仕込まれているのでは無いかと錯覚するくらい。
今日も本当に偶然だった。
泣いていて驚いたが、正直…会えて嬉しかった。
ただ、何を聞いても答えない感じ。俺の事を信頼していないのは見え見えだ。
藤原を帰して20分後に早川が準備室へ戻ってきた。
俺は姿を確認せずに声を掛ける。
「やっと来た。神崎の補習、無事終わったぞ」
「はい、ありがとうございました」
「ん?」
声が震えている。
そこで初めて早川の方を向くと…こいつも泣いていた。
「え、お前も!?」
何で藤原にプラスしてお前まで泣いているんだよ!!
「僕のことは放っておいてください」
「別にお前の事はどうでもいいんだけどさ。藤原も泣いていたのは関係あるんだろ? 何があったんだよ」
「………」
ほら、黙る。どうせこいつも話はしないんだろう。
「まぁ、別に良いけどさ。お前、藤原を泣かしていると本当に横取りするぞ? いつでも準備万端だからな」
「………」
何も喋らない早川を無視して俺は仕事に取り掛かることにした。
何なんだよ。本当に変な奴。
今日、神崎と初めて会話をした。長髪で痩せ型。切れの長い目をしていた。彼女と別れて補習とか、青春という感じがしてむず痒い。俺にはもうない感覚。
補習している会話の中で、藤原が出てきた。
昨日初めて藤原と話したらしいが、どうやら興味が出てきたからその日の内に付き合おうと大胆な告白をしたとのこと。
…心底舐め腐った奴だ。そう思った。
ただ、それが俺のような “教師” と神崎のような “同級生” の違いだよな。
深く考えずに言えるか、言えないか。という違い。
まぁ、横に居る早川はそれを乗り越えた強者であるが。
「おい、いつまで泣いているんだよ。いい加減にしろよ」
「……」
黙り込んだままの早川は急に動き出し、荷物を片付けて鞄を持った。
「…今日は帰ります」
「え? お、おう?」
無言のまま走って数学科準備室から出て行った。
扉くらい閉めて帰れよ…。
「…意味分からん」
普段から早川の行動は理解できないが、今日はより一層理解できない。
職員室で神崎の補習引き継いだときは普通だったから、そこから藤原との補習の間に何かがあったのは間違いない。
「…はぁ」
早川のことは全く興味関心が無いが、あの様子だとどうにも気になる。
明日こそ事情を聞きだしてやろう、そう思っていたのに。
翌日、早川は体調不良を理由に欠席した。
(side 伊東 終)