青春は、数学に染まる。
今日はクリスマスイブ。
浮かれたカップルたちが校内に溢れかえっている。
本当は早川先生と過ごしたかった、この日。
別れている今、どんなに考えてもどうしようも無いけど。
浮かれているのは有紗も例外では無かった。
付き合っている青見先輩とデートらしい。
日頃は空手の練習優先でデートは基本しない2人だけど、今日は特別みたい。青見先輩も部活後の練習はせずに有紗と帰ってデートをするんだって。
良いなぁ。
羨ましい気持ちに駆られるが、それ以上に有紗が幸せそうだから嬉しい。
初めてのデート、楽しんで欲しい。
「お、藤原さん」
「…神崎くん」
神崎くんは懲りずに私の姿が見えると話しかけてくる。
昨日突き放したのに…なかなか諦めない。
「クリスマスイブだよ。今日この後予定あるの?」
「あるように見える?」
「見えない」
「でしょ?」
「…良かった。彼氏とデートとか言われたらどうしようかと思った」
神崎くんはそう言いながら苦笑いを浮かべる。彼氏の有無も知らずに付き合おうって言っていたのかな。
まぁ私も言ったことないけど。やっぱり神崎くんは何を考えているかわからない。
「俺はね、今から部活なんだ」
「そういや、何部なの?」
「俺ね、軽音部。ベースを弾いているよ」
「へぇ、凄いね。見た目からは想像できないけど」
「本当? むしろ見た目通りって言われるよ」
まぁ…確かに、髪型がビジュアル系バンドっぽい、かな。
制服のネクタイを緩く結んでいるし。
「そうだ! 藤原さん。来年、ライブするんだ。是非見に来てよ」
「へぇ…ライブかぁ。凄いね」
「俺は藤原さんの為に弾くよ。招待するから絶対に来てね。絶対!」
そう言って軽音部の部室の方へ向かって行った。
「え、ちょっと」
私、返事していないんだけど…。
本当に招待されたらどうしよう。
…そう思ったけど、別に今は誰かと付き合っているわけでもないし。
神崎くんの取り巻きにさえ見つからなければどうなっても良いかな、と少しだけ思った。