青春は、数学に染まる。
翌日、教室に行くと朝練を終えた有紗が居た。
「真帆、おはよぉ。昨日は補習お疲れ!」
「おはよ。ありがとう」
家帰ってから伊東先生のことばかり考えすぎて、正直寝不足だ。
本当にしょうもない。
「…真帆、全然元気ないじゃん。どうしたの?」
「いや、補習がねぇ~…」
もう帰りたい。今来たばかりなのに、もうそんなこと考えている。
「なにそれ! ちょっと、昼休みに詳しく聞かせてもらうからね」
事情聴取だ!! そう言って有紗は大笑いした。
昼休み、私たちはいつも通り中庭へ向かった。
今日のランチはおにぎり。有紗は菓子パンを食べている。
「まずね、数学で赤点を取った生徒は全学年で私だけらしいよ。補習、独りぼっちだったの」
「えぇ! それって…早川先生とマンツーマンってこと!?」
「まぁそうなるね」
有紗はキャーっとわざとらしく両手で頬を抑える。
「どういう反応? 補習以外何も無いけど」
「2人きりだなんて、真帆惚れちゃうじゃん~!!!」
「え? 早川先生に?」
何で私が先生と2人きりになるとその相手に惚れてしまう前提なのか。
早川先生は全く眼中に無い。
「有紗…違うの。そもそも2人きりでは無いし、早川先生はどうでもいいの。この補習の問題点は伊東先生の方なの」
「え、伊東先生!?」
私はおにぎりを齧りながら言葉を継ぐ。
「まぁ聞いて」
伊東先生と初めて会って馬鹿にされたことを話した。
「それで終わった後、何かまた話しかけられて。初対面だったのにもう呼び捨てよ。けれどその後、さっき馬鹿にしたお詫びっていうことでキャンディーくれてさぁ。意味分からなくない?」
同情してくれるかと思っていた。
だが、有紗の反応はどうも違うようだ。
「何それ…! 胸キュン…!」
「どこがよ!!」
どう考えても馬鹿にされているだけで、胸キュン要素なんて無いよ。
…とは言え。
「最初イラっとしたのに、キャンディー貰った後、何だか胸の中が温かい感じがして…不思議だったんだよね…」
「真帆、それは恋だよ!」
「え、恋!? だから、絶対違うって!」
この感情は『恋』の一言で片付けるには、少し複雑な感じがする。
恋と苛立ちは結び付かないし。
何だろう…この感情は何と呼ぶのだろう。
「かっこいいと思って伊東先生を眺めていたけれど、何だか私の中で印象が変わった感じがするんだよね」
「これから本当の先生を知って、それが恋に変わっていくんだ…」
「いや、変わんないよ!?」
両手を組んで頷いている有紗。…楽しんでいるな。完全に。
こっちは苦しい思いをしているというのに…!
「ていうか、何で数学科準備室に伊東先生が居るの?」
「ね! それ私も何故って思ったんだけど。数学教師だったんだよ、伊東先生」
「…あぁ! そう言えばそうだったね。忘れていたわ」
伊東先生、やっぱり数学のイメージが無さすぎる。可哀想に。