青春は、数学に染まる。

(side 早川)


藤原さんを送って学校に戻ると20時を過ぎていた。
数学科準備室にはまだ明かりが点いており、中には伊東先生がいる。


「遅くまで何されているのですか」
「仕事に決まっているだろ…」

伊東先生は机に向かって書類の整理をしているようだ。
AV見ている暇があるなら仕事すれば良いのに。

そう思いながら僕も自分の机に向かい、学年末テストの内容を考え始める。今回は1年間の総まとめ。どうしようかな…。



「…なぁ、早川。藤原のところ、行っていたんだよな…?」
「…僕がどこに行こうと伊東先生には関係ありませんから。ノーコメントです」

伊東先生はわかり易く溜息をついて下を向いた。
そんな風になるなら、最初から藤原さんに構わなければ良いのに。


そもそも、藤原さんは僕の彼女ですけども。



「なぁ…。俺、藤原に謝りたいんだけど…」
「その必要はありません。もう二度と、藤原さんと伊東先生を会わせないと決めましたから」
「……」

また黙り込んだ。伊東先生はすぐ黙り込む。多分これが癖なのだろう。



「伊東先生。僕、ここの部屋にパーティションを設置しようと思っています」
「パーティション? 仕切るってこと?」
「そうです。そもそも僕ら仲良くありませんので。この際ですから、この部屋を2つに割りましょう」



そう、僕が考えた藤原さんと伊東先生を会わせないようにする為の対策。

部屋を物理的に区切る。
これに尽きると思う。



「それって…もう物理的に顔を合わせないようにするってこと?」
「そうです」

元々この部屋はパーティションで区切られていた。
だからそれを戻すと考えれば簡単な話だ。



「……まぁ…そうか、分かった…」


意外と素直に応じた伊東先生。
物分かりが良くてよろしい。

 


そうと決まれば即行動。
倉庫からパーティションを引っ張り出して、数学科準備室に運ぶ。

学校には僕と伊東先生以外いないようで、誰にも見つからずスムーズにいった。

「応接セットと冷蔵庫も僕が貰います」
「好きにしろ…」

物を左側に寄せて、パーティションを天井のレールに()めていく。

最後の1枚を嵌めると、部屋は2つとなった。


「ふう…最初からこうすれば良かったです」
「…」

伊東先生は苦虫を噛み潰したような表情をしている。

「伊東先生、こうなったのも自業自得ですから」

そう言って僕は廊下に出て、伊東先生側に掛かっている『数学補習同好会』の看板を取り外した。


そしてその看板を僕側の出入り口に掛ける。

「俺も副顧問だし、創設者なんだけど…」
「それでも、正顧問は僕です。指導しているのも僕です」


(うつむ)いて動かない伊東先生。
時計はもう21時を回っている。急いで仕事終わらせないと…。


「とにかく、この件はもう終わりです。今後もう、藤原さんに関わらないで下さいよ」

伊東先生の背中を押して廊下に出す。そしてぴしゃりと扉を閉めた。

「…はぁ」

今から学年末テストの作成だ。大まかな部分だけ作ろう…。



「その前に…」

部屋の写真を撮り、それを藤原さんのメッセージに送信した。
また補習に来てくれるといいな。そう思いながらスマホを閉じる。



この日は日付が変わるまで、学校に残っていた。





 

(side 早川 終)




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