青春は、数学に染まる。
転任と退学
あの日から1週間が経ち2月になった。
生徒たちは学年末の考査期間に突入した。
僕はあれから藤原さんの補習も行わず、伊東先生と青見くんのことに取り組んでいた。
僕は今回の件を教頭先生に報告した。
その後は校長先生も交えて話し合いが行われ、最終的に緊急の職員会議まで辿り着いた。
殆どの先生が嫌悪感を抱き、懲戒免職にするべきだとその場では意見がまとまる。僕はこの当たり前の結果に納得していたのに…。
最終的に校長先生と教育委員会が話し合って下した結果は、まさかの『転任』だった。
実は県内の数学教師の数が少ない。毎年募集を掛けているが集まらないのだ。それは僕の耳にも入っていた。
教育委員会としては、変態教師でも惜しいのだろう。
腐りきった県教育委員会に虫唾が走る。
伊東先生は一昨日から謹慎期間に入った。
終了は3月末予定となっている。つまり、もうこの学校に伊東先生は来ないということだ。
“教師としての僕” は正直不安でいっぱいだった。
伊東先生が受け持っていたクラスの数学を引き継ぐことになったからだ。
でも仕方ないよね。
数学教師、他にいないのだから。
“男としての僕” は喜びでいっぱいだった。
藤原さんに関わろうとする男が1人減る。
伊東先生もかなり脅威だったので、これ程嬉しいことはない。
一方の青見くんは…卒業を目前にして退学することになった。
的場さん以外の5人の名前を聞き出し事情聴取が行われた。
伊東先生との行為を楽しんで居たという生徒もいたが、皆が口を揃えて言うのは『青見のことは許さない』だった。
それはそうだ。彼氏、セフレだと思っていた人に売られた訳だから。
そうなるよね。
教頭先生も校長先生も、今回の青見くんがしたことは容認出来ないという結論を出した。
決まっていた就職内定は取り消し。
そして…全国大会への出場も、取り消しとなった。
これで良かったのか、悩むこともあった。
卒業間際に退学なんて、青見くんは本当に可哀想だった。
けれど、これを機に改心して欲しい。
人を売って自分が良い思いをするなんて、絶対に許されないことだということを…。
『先生は間違っていなかったですよ』
藤原さんにそう言って欲しい。なんて、女々しい事を思う。
僕が教頭先生に報告した際、こんな話を聞かされた。
本当は4月から、伊東先生を新2年生のクラス担任に割り当てるつもりだったと。
また調整しないとね…そう嘆いていた。
つまり、藤原さんの学年だ。
伊東先生が藤原さんの担任にでもなっていたら…。
そう考えるだけで吐き気がしてくる。多分、僕は耐えられない。
「…はぁ」
折角取り付けたパーティション。
あまり活かすことなく、伊東先生はいなくなる。
とはいえ、伊東先生の後任として別の数学教師が来るはず。
「暫くはこのままで良いか…」
様子見をしてから外すかどうするか考えることにしよう。
僕はパーティションに軽くパンチをして、仕事に取り掛かった。
(side 早川 終)