青春は、数学に染まる。
早川先生の不安
その日の夜。
早川先生にメッセージを送った。
『先生、こんばんは。今日の帰り、神崎くんからライブのチケットを貰いました。行ってきますね』
わざと先生を不安にさせるような文を送る。
先生も家にいるのか、すぐに既読が付いた。
「どんな反応しているのかな…」
あたふたしている早川先生を想像して思わず笑いが零れる。
私、かなり先生にハマっているな。
そんなこと考えていると、スマホが鳴った。
メッセージの返信…ではなく、電話だ。
「はい」
『こんばんは。早川です』
「こんばんは」
電話越しの先生の声は、少し不機嫌そうだ。
『藤原さん…、行ってきますねって何ですか…』
「ご報告です」
『そうでは無くて…』
煮え切らない態度の先生。ゴニョゴニョ何か言っている。
「先生、行かない方が良いですか?」
少し黙り込んだ後、はい…と小さく言った。
『ごめんなさい、藤原さん。この前、藤原さんは他の人に乗り換えることなんてないって言ってくれましたけど。それでも…正直、不安が取り除けません』
そんなことだろうとは思っていたよ。寧ろ想定内。
「……私だって、行きたくはありません。でも、付き合いもあります。先生も分かるでしょう」
『それは、勿論分かります。けれど、神崎くんとの付き合いって必要ですかね?』
「うーん…まぁ、解釈は人それぞれだと思いますけど…」
また先生は暫く黙り込んだ。
「…先生?」
『あの、藤原さん。今から少し会えませんか?』
「え?」
『今、家にいます。そちらまで10分程度で行けます』
10分? 早川先生、思っていたより近くに住んでいるようで驚いた。
「分かりました。お待ちしております」
電話を切り、出掛ける用意をする。
時刻は20時過ぎ。お風呂は…帰ってから入ろう。
「お母さん、ちょっと先生と会ってくるね」
「え、裕哉くん?」
「急ねぇ、どうしたの」
先生の名前を呼んでニヤニヤし始めたお父さん。
体を起こし始めた。
「最近話せていないから。ちょっと話してくる」
「真帆。話が終わったらうちに上がって貰いなよ。またお酒でも飲んでさ」
何故起きたのかと思ったが、それが目的だったか。
嬉しそうなお父さんに申し訳ないけど、そんな時間は無い。
「ダメだよ。明日まだ平日だし」
「そうよ…。じゃあ真帆、気を付けてね」
「裕哉くんに宜しくなぁ」
「はーい」
すっかり先生のことを受け入れてくれている両親。
私は恵まれているな…。嬉しくて思わず頬が緩む。