御曹司は高嶺の花に愛を刻む
お袋が言ってたのが、菜由だった。

う、嘘だろ?

そんな事ある?

後日また俺は、出会った経緯を聞いた。

お袋が、ヒールを引っ掛けて転んだ所に居合わせた菜由が、肩を貸して路肩のベンチまで運んでくれて、自分の服を脱いで破れたストッキングを隠してくれたと。

そして、血が出た所をあの白のレースのハンカチで躊躇う事なく、拭いてくれたと。

しかも、デパートに走って行って、新しいサンダルとストッキングを買ってきてくれて、手当てもしてくれたと。

すごく急いでいた時だったのに、迷わず手を差し伸べてくれたと。

日付を聞いたら、俺たちが朝慌てて起きた、あの日の出来事だった。

クックック。
さすが、菜由。

あんなに大事そうに、わざわざ俺の所にハンカチを取りに来たのに、あっさり知らない人の為に渡してしまうなんてな。

あんなに必死に、バタバタとシャワーを浴びて、本当に急いでいたのに、目の前の困ってる人に、手を差し伸べるなんてな。

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