気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「そう。くびになって引きこもってたみたいなんだけど、警察沙汰を起こしたみたいなの。社長を含め金洞家の人たちは大慌てよ……前から問題人物だったけど、まさか犯罪者になってしまうなんてね」
「そ、そうなんですか」
 どうやら金洞商会の社内で副社長の件は噂になっているようだが、被害者が咲良なのは公表されていないようだった。
「業績は悪化の一方だし、元役員は問題を起こすし、ますます先が不安になるわ」
 溜息をつく美貴の愚痴を聞いてから、近い内に会う約束をして電話を切った。

 大きな出来事がないまま年内の業務を終えて、年末年始になった。
 颯斗はこれまで正月など関係なく仕事をしていたそうだが、今年は結婚して初めて迎える元旦ということもあり、数日ゆっくり休暇を取ることになった。
 仕事以外にも心配事が重なり緊張感がある日々だったが、休みの間は嫌なことは忘れてリフレッシュしよう。
 そうふたりで話し合い、元日は渡会家に、一日空けて三日に咲良の実家を訪問しようと予定を立てた。

 渡会家は本家という事で、二日に親類が集まることになっているそうだ。
 一日は家族だけの集まりということで、ダイニングルームには義両親と兄の姿があった。
「あけましておめでとうございます」
 颯斗と揃い新年の挨拶をすると、義家族が笑顔で挨拶を返してくれた。
「お節だけはここ数年懇意にしている料亭で作って貰っているの」
 テーブルの上には、本格的なお節料理のお重が並んでいる。伝統にのっとったものだが、色鮮やかでとても美味しそうに見えた。
「食べるのが勿体ないくらい綺麗ですね」
「そうでしょう? やっぱりプロの作品は違うわよね。そう言えば咲良ちゃんはもうお店に連れて行ったの?」
 にこにこと咲良に話しかけていた義母が、颯斗に目を向ける。
「連れて行った。結構気に入ってくれてたよな」
 颯斗にそう言われて、思い浮かぶものがあった。
「紹介制のところ?」
「そう。俺たちにとってもよい思い出の料亭になったな」
「あら、どんな思い出?」
 興味深々で義母が割り込んで来る。
「咲良が結婚を決意してくれたんだ」
 澄まして答える颯斗に、義母が目を輝かせる。
「いいわね、その話をもっと聞きたいわ」
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