気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 義母はこういった話が好きなのかかなり盛り上がっている。義父と義兄がつまらないと感じていないか心配になったが、ふたりとも義母のこういった態度には慣れている様子で特に気にした様子はなかった。
「大して話すことなんてないって。ただ俺が咲良に結婚を……」
 颯斗がざっくりと質問に答えていると、インターホンの音が響いた。普段なら住み込みの家事使用人が対応するが、あいにく元日の今日は休みを取っている。
 颯斗が席を立ち、棚に置いてあるタブレットを手にする。インターホンに連動するように設定されているのだろう。彼は画面を確認した途端に顔をしかめた。
「どなた?」
 義母の問いに、颯斗が浮かない声で返事をする。
「五葉瀬奈さんだ」
「え?」
 義父が僅かに眉をひそめる。咲良は拒否感が顔に出てしまいそうになり、慌てて俯いた。
「誰かが招いたってことはないよな?」
 義兄が諦めたような声で言い立ち上がる。
「とりあえず俺が対応する。颯斗と咲良さんは部屋を移った方がいいかもしれない」
「颯斗、ここはいいから咲良さんと行きなさい」
 義両親にも促され、颯斗は険しい表情で頷いた。
「悪いがそうさせて貰う。行こう咲良」
「ええ」
 颯斗に連れられてリビングを出ると、奥に向かい廊下を進んだ。
 玄関から更に遠ざかっているから、家族のプライベートな空間なのだろう。間違っても瀬奈と遭遇しない様子が見て取れる。
 颯斗は最奥の部屋の扉を開いた。中は十畳くらいの和室で、家具がほとんどない為、がらんとした寂しい印象だ。
「ここは?」
「元俺の部屋。実家を出る時に古い家具を処分したから、こんな状態なんだ」
「ここで颯斗さんが……でも子供部屋の名残があまりないかも」
 夫の過ごした部屋と言うと俄然興味が湧いてきょろきょろ見回したが、どこを見てもこれといって気になるところはない。
 ただ子供が使うには渋いと感じた。あの義母ならカラフルなクロスにしたり、改装な気がするけれど。
「子供のころは兄と二階を使ってた。ある日急にひとりになりたくて、こっちに移ったんだ。子供ながらに独立心が育ったんだろうな」
「ふふ……お義母様たちは驚いたでしょうね」
「寛容な家族に感謝してる」
「……お義兄さんは、大丈夫なのかな。瀬奈さんは颯斗さんに執着していたみたいだから、傷つくことを言われてなければいいのだけれど」
「そうだな」
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