気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 少し目を伏せて颯斗が言う。
「せっかく結婚したのに諦めてくれないなんて……」
「予想外だったが、俺は咲良と結婚出来てよかったと思ってる」
「うん、私も……」
 どちらからともなくキスをする。
「俺は幸せ者だな」
「私も」
 くすくすと笑い合いながら、何度も唇を重ね合う。
 寂しい部屋にこもる予想外の元日になったけれど、結構幸せだ。
 それは颯斗と一緒だから。愛する夫と抱き合い温もりを確かめ有った。

 しばらくするとドタドタと激しい足音が聞こえて来た。
 颯斗が険しい表情を浮かべる。
(まさか瀬奈さんじゃないでしょうね)
 咲良も警戒を始めると同時に声かけもなく、ガラッと部屋の引き戸が開いた。
「颯斗さん、捜したわ!」
 無礼をはたらいているのに意に介さない堂々とした態度に、咲良は呆れてしまう。
 しかし瀬奈が見ているのは颯斗だけで、咲良には見向きもしない。
「颯斗さんの車があるのにリビングに居ないから心配してたの。彰斗さんたちと話していてようやくここだと分かったのだけど」
 瀬奈の発言が終わると颯斗はすっと目を細めた。
「正月早々押しかけて来たと思ったら、無断で人の部屋に入る。妻を無視して一方的に自分の主張を訴える。あまりに失礼な態度だ」
(颯斗さん、本気で怒ってる)
 颯斗は瀬奈を疎ましく感じながらも、義家族の立場やワタライワークスのため、これまで穏便に済ませていたはずだ。
 けれど今はこれまでの怒りが爆発したように冷ややかな目を瀬奈に送っている。
「瀬奈さん!」
 瀬奈を追って来た義兄が、緊迫した様子を見て蒼白になる。
「兄さん、すまない。でも妻を蔑ろにされてこれ以上黙っていられない」
 颯斗の訴えに、義兄は険しい表情ながらも頷いた。
そんなふたりのやり取りを見ていた 瀬奈がヒステリックな声を上げる。
「私は颯斗さんと結婚するって言ってるでしょう!」
 衝撃の発言に、室内が一瞬怖い程静かになる。
「俺はもう結婚している。妻の目の前でよくそんな発言が出来るな」
 しばらくすると颯斗が心底不快そうに吐き捨てた。
「君にははっきり言わないと分からないのだろうな……瀬奈さん、なぜそんな勘違いをしているのか知らないが、俺が君と結婚する可能性はゼロだ。君の行動を俺は迷惑だと感じている」
「なっ、……なんでそんな……私が嫌いだって言うの?」
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