気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「嫌いだ。今後、個人的に付き合うつもりはない」
 瀬奈にとって思いもしなかった言葉なのか、彼女はショックを受けてブルブル震えている。
 けれどしばらくすると衝撃が怒りに変化したようで、真っ赤な顔で咲良を睨みつけて来た。
 それまで無視していたくせに、咲良に向ける憎悪はすさまじいものだ。
「あんたが突然現れたから! 颯斗さんは知らないんでしょう? この女を妻にしたままだと酷い目に合うのに!」
「どういう意味だ?」
 颯斗が咲良を自分の背に隠す。その態度が瀬奈の怒りにますます火を点けてしまった。
「この女の評判は最悪なのよ! インターネットの匿名掲示板に山のように書いて有ったわ。前の会社では横領までしてたって噂よ!」
「横領?」
 咲良はこれ以上瀬奈を刺激しない為にも、自分は口出ししない方がいいと思って黙っていたが、あまりの事態につい声を上げてしまった。
(横領って何? どうしてそんな話に?)
「それはどの掲示板だ?」
 颯斗の声が一層低くなった。迫力にあふれるその様子に、さすがの瀬奈も一歩後ずさりする。
「え、それは……」
「すぐに言え!」
「知らない! 噂で聞いたただけよ!」
 颯斗の剣幕に瀬奈は耐えきれなかったのか、そう叫ぶと部屋から逃げ出した。
 嵐の訪れのようだった瀬奈がいなくなると、咲良は戸惑いながら呟いた。
「わたしが横領したってどういうこと?」
「掲示板と言っていたな。調べてみよう」
「手分けした方がいいな」
 颯斗の言葉に義兄が同意して、すぐに調査を始める。
 インターネットの掲示板など無数にある。
 見つかるか不安だったが、検索キーワードが上手くヒットしたようで一時間程で咲良を中傷する書き込みを見付けることが出来た。
 問題の書き込みは女性向けのトピックが多いローカルな掲示板に、ストーリー仕立てで書き込まれていた。
〈没落企業で副社長の秘書として働いていた女性駒〇咲〇。横領がバレて退職したが優しい上司のおかげで起訴はされなかった。しかし今も懲りずに有名CEOに付きまとい結婚を迫っている〉
 などと、役目を果たしているとは思えない伏字氏名で、かなり詳細に書かれていた。
 咲良の誹謗中傷が目的なので、わざと身元が分かるようにしているようだ。
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