気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 内容的に咲良をよく知る人物の書き込みなのは間違いなかった。可能性としては咲良に恨みを持っている金洞副社長の可能性が高い。
 ただどことなく違和感がある。
 颯斗も同様な考えだったのか、しばらく無言で考え込んでいた。
「これはもしかして……」
「なにか気付いたんですか?」
「書き込んでるのは瀬奈なんじゃないか?」
「えっ、彼女が?」
 大きく目を見開く咲良に、颯斗は間違いないと頷く。
「でも、瀬奈さんは私の横領の件を掲示板で見て知ったって」
「それは嘘だ。咲良の不名誉な噂が広げようとでも思ったんだろう」
「十分考えられるな。誰が描き込んだかなんてその気になれば調べられるのに、すぐばれる嘘をつくところがいかにも彼女らしい」
 義兄は無表情だが辛辣な発言だった。内心瀬奈に対して相当な不満を持っているのだろう。
「わざわざ女性向けのスレッドに書き込んでるところも、考え無しだな。悪評を広めるには、閲覧数が多いところに書くべきなのに」
「……そう言われると、他の可能性が浮かばなくなりますね」
 颯斗と義兄が確信しているように頷いた。
「五葉瀬奈へを許す訳にはいかない。彼女は立場を利用してやり過ぎた。自分の行いを後悔するときだ」
 颯斗は決意をした表情で宣言した。

 一月五日。ワタライワークスの仕事はじめは、颯斗の年始の挨拶からはじまった。
 社員たちに長期休暇への未練は見られず、みながやる気に溢れている。
「ワタライワークスも創立五年目を迎えるが、今年は重大な発表がある」
 メインフロアに集まった社員が、何事かと颯斗を見つめる。
 颯斗は全員を見渡してから口を開いた。
「我が社は今から一年後を目途にグロース市場へ上場することを決定した。その為にこれからも成長を続ける必要がある。ひとりひとりが力を尽くしますますワタライワークスを盛り上げていって欲しい」
 颯斗の言葉が終わると、社員の間に騒めきが広がる。
 興奮が抑えきれないのか近くの同僚同士で喜び合う者もいた。
 株式上場をするということは、ワタライワークスがまた一段企業として発展するということだ。
 立ち上げてから四年の企業で上場出来る確率はとても低い。
 彼は信じられない偉業を成し遂げたのだ。
 株式を公開することで、これまでよりも格段に多くの人々から資金が集まる。
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