気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「なんで……なんでその女ばかり庇うのよ!」
「俺にとって何よりも大切な人だからだ。彼女をその女と呼ぶのも止めてくれ。心底不快だ」
 瀬奈は颯斗の迫力に恐怖を覚えたのか、勢いがそがれ父親に助けを求めるような視線を向ける。しかし瀬奈の父親は娘を突き放した。
「はあ……お前もいい加減大人になれ。謝罪しなさい」
「そんな……」
「娘に謝罪させて慰謝料を払う。手続きを進めてくれ」
 父親を頼れないと悟った瀬奈は怒りか屈辱か分からないが震えながら咲良を見た
「どうして私が……」
「瀬奈、いい加減にしろ」
 父親の厳しい声苦痛の滲んだ顔で口を開く。
「ご、ごめんなさい。すみませんでした」
 社会人とは思えない謝罪だが、咲良はしつこく責めるつもりはなかった。颯斗と目を合わせ軽く頷きあってから瀬奈を見つめる。
「謝罪を受けました。反省して二度とこのような行いはしないと約束してください」
 咲良に言われるなんて悔しくて仕方ないだろう。
 けれど、父親が慰謝料を肩代わりする瀬奈に反省を促すのはこれしかない。
「ごめんなさい、二度と嫌がらせなんてしません」
 咲良は自分を見下していた女性が頭を下げるのを、複雑な想いで見つめた。
 瀬奈が涙を零し会議室には気まずい空気が漂っていた。

「これで大体解決したね」
 法律事務所の帰り道。咲良は開放感でいっぱいになりながら呟いた。
 あとは株式上場に向かって頑張るのみだ。
「嬉しそうだな」
 右隣りを歩く颯斗が咲良の様子にくすりと笑う。
「嬉しいよ。だってこれでようやく瀬奈さんと縁が切れたんだもの。でも瀬奈さんのお父様の態度は意外でしたね」
 彼は、娘を庇ってもう少しごめると予想していた。
「恐らく五葉さんは娘よりも利益を取ったんだろうな。ワタライワークスが株式上場する情報は当然掴んでいるから、揉めたくないんだろう」
「なるほど。娘に甘いかと思ってたけど、結構ドライなんですね」
「そうだな。今回は明らかに瀬奈に比があるから婚約話も無事解消出来る。一見落着だ」
 颯斗はほっとした表情を浮かべながら咲良の手を取った。
「温かい」
 大きな手に包まれると安心する。
 彼は咲良の一番の味方で、これからもずっと側にいる人なのだと実感し喜びがこみ上げた。
「どうしたんだ?」
「ただ幸せを実感してただけです。結婚してよかったなって」
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