気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 颯斗の顔に喜びが広がる。
「俺も最高に幸せを感じてる。あのとき結婚を決意してくれてありがとう」
 これからもよろしく。そんな気持ちを込めて、お互いの手を握り合った。

 国際ホテルの広間には正装した多くの人が集まっていた。
 咲良はその様子を確認してから、足早に控室に向かう。
「渡会CEO、皆さんお集りになりました」
 普段よりもしっかり髪をセットし、上質のダークグレーのスーツを見事に着こなした颯斗が、咲良を振り返り頷く。
「ああ、行こう」
 咲良と颯斗が結婚して一年半。
 ワタライワークスは成長を続け、先日ついに株式上場が正式に決定した。
 今日の上場祝いの席には、多くの企業や知人が駆けつけてくれている。
 颯斗が広間に入ると、人々の視線が一気に集まる。
 彼は堂々とした足取りで雛段に上り皆を見渡し、口を開いた。
「本日はお集りいただきありがとうございます。株式上場は起業した当初からの最重要の目標でした。優秀な社員の尽力と、今日ここに集まって下さった皆様に力添えによりひとつの区切りがついたと思っています。しかしここで満足するつもりはありません。ワタライワークスはこれから更に成長していきます」
 力強い声で観衆の関心を集め、端正な顔には不敵な笑みを浮かべている。
 天性のカリスマを感じる男性が、自分の夫だということが誇らしくて、咲良の胸はいっぱいになった。
 人前では決して見せない彼の努力と苦労を、この一年以上咲良は見て来た。
 これからも彼の側で少しでも支えて行きたい。
 華やかな舞台に立つ夫を見つめながら、咲良はそう決心した。

「颯斗さんお疲れさまでした」
 上場祝いが全て終わった後、咲良と颯斗は予め取っておいたホテル上階の部屋に移動した。
 今夜はここに泊りゆっくり夫婦だけのお祝いをするつもりだ。
「颯斗さんお疲れさまでした」
「ありがとう。咲良もお疲れさま」
 ふたりでワイングラスを傾ける。
「この一年頑張ったな」
 颯斗が息を吐きながらしみじみ言う。
「新婚だってのに、仕事してばかりだったな」
「そうだね。でも目標に向けて頑張るのは充実していて楽しかった。それに忙しくてもいつも側にいてくれたでしょう?」
 彼が咲良をないがしろにいたことは一度もない。
 どんなに忙しくても、咲良を想い大切にしてくれていた。
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