気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
咲良はスイートルームの端から端まで確認して回ったが、颯斗はどこにもいない。
「そっか……先に帰ったんだ」
咲良はようやく気付くと、ソファにどさりと座り込んだ。
顔を会わせたらどんな顔をすればいいんだろう。そんな心配はなくなった。
彼はもういないのだから。
一夜の関係に相応しい、 想像していた以上に呆気ない別れ。
本当に昨夜の出来事は夢だったのかと思うくらい。
「気を遣い過ぎて変に気まずくならなくてよかったかも」
大人の彼はこういう時の別れ方を心得ているのだ。さすがだと思う。
(でも……)
咲良はがくりと項垂れた。
昨夜の情熱的だった彼との落差があまりに激しくて、心がついていかない。
胸がずきりと痛み、全身を巡っていくようだ。
(分かっていたけど、悲しいな……)
一度だけの関係だと覚悟していたはずなのに、颯斗が咲良に触れる手も唇もとても優しかったから期待してしまったのだ。
もしかしたら、先があるのかもしれないと。
けれどそれは咲良の都合がよい幻想だった。
(元々違う世界の人だったんだから)
特別な夜は思い出にして、日常に戻るしかない。出来るなら、直接別れの挨拶をしたかったけれど。
(でも仕方ないよね)
全て自分が決めたことなのだ。
いつまでも凹んでいる場合じゃないと、咲良はダイニングチェアから立ち上がる。
急いで帰り支度をしなくては。
咲良の自宅は山手線の田端駅から徒歩十五分程のマンションで、それ程遠くはないが、始業が九時だから結構ギリギリだ。
沈んでいた気持ちが浮上する。
「ワタライワークス株式会社、渡会隼人……代表取締役、CEO!?」
ホテルのロビーには、爽やかな朝の光が差し込んでいた。昨夜来たときとは、まるで違う光景だ。宿泊費の清算などは、颯斗によって全て済んでいた。
(最後までスマートな人)
咲良はこみあげる切なさを感じながら、ひとりでホテルを出た。
金洞商会の本社ビルは、新橋駅から徒歩五分と好立地に建つ。
千九百七十七年施工。その後耐震工事などを経ているものの、内装も設備も昭和の雰囲気が溢れている。
咲良が所属する秘書室は、役員室がある最上階フロアだ。
のろのろしたエレベーターで七階まで昇り、秘書室のドアを開いたのは午前八時二十分だった。
「そっか……先に帰ったんだ」
咲良はようやく気付くと、ソファにどさりと座り込んだ。
顔を会わせたらどんな顔をすればいいんだろう。そんな心配はなくなった。
彼はもういないのだから。
一夜の関係に相応しい、 想像していた以上に呆気ない別れ。
本当に昨夜の出来事は夢だったのかと思うくらい。
「気を遣い過ぎて変に気まずくならなくてよかったかも」
大人の彼はこういう時の別れ方を心得ているのだ。さすがだと思う。
(でも……)
咲良はがくりと項垂れた。
昨夜の情熱的だった彼との落差があまりに激しくて、心がついていかない。
胸がずきりと痛み、全身を巡っていくようだ。
(分かっていたけど、悲しいな……)
一度だけの関係だと覚悟していたはずなのに、颯斗が咲良に触れる手も唇もとても優しかったから期待してしまったのだ。
もしかしたら、先があるのかもしれないと。
けれどそれは咲良の都合がよい幻想だった。
(元々違う世界の人だったんだから)
特別な夜は思い出にして、日常に戻るしかない。出来るなら、直接別れの挨拶をしたかったけれど。
(でも仕方ないよね)
全て自分が決めたことなのだ。
いつまでも凹んでいる場合じゃないと、咲良はダイニングチェアから立ち上がる。
急いで帰り支度をしなくては。
咲良の自宅は山手線の田端駅から徒歩十五分程のマンションで、それ程遠くはないが、始業が九時だから結構ギリギリだ。
沈んでいた気持ちが浮上する。
「ワタライワークス株式会社、渡会隼人……代表取締役、CEO!?」
ホテルのロビーには、爽やかな朝の光が差し込んでいた。昨夜来たときとは、まるで違う光景だ。宿泊費の清算などは、颯斗によって全て済んでいた。
(最後までスマートな人)
咲良はこみあげる切なさを感じながら、ひとりでホテルを出た。
金洞商会の本社ビルは、新橋駅から徒歩五分と好立地に建つ。
千九百七十七年施工。その後耐震工事などを経ているものの、内装も設備も昭和の雰囲気が溢れている。
咲良が所属する秘書室は、役員室がある最上階フロアだ。
のろのろしたエレベーターで七階まで昇り、秘書室のドアを開いたのは午前八時二十分だった。