気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 同時にし美貴との会話中に感じた不安感が蘇ってきた。
(もし昨夜のことが、会社の人に知られたらどうしよう……)
 ふたりで居るところを知りあいに見られてはいないと思うが、絶対ではない。
 もしも颯斗と一晩とはいえ特別な関係になったという噂が副社長にまで届くようなことが有ったらただでは済まない。
 副社長は何事も曲解して大騒ぎしがちだ。
 今回の件なら企業情報を流したくらい言い出し、スパイ扱いされかねない。
 もちろん濡れ衣だけれど、そんなことになったら、仕事を続ける自信がないし、解雇を言い渡される可能施だってある。。
(だめだ……絶対にばれないようにしなくちゃ)
 咲良は決意を新たに気を引き締める。
 油断したときに失言しないように、昨夜の出来事はなかったことにして、咲良の胸の奥に厳重に仕舞いこもう。
 濃密な夜に彼が与えてくれたときめきと熱と快感は、当分忘れられるのはとても難しいけれど。
 咲良は間違いなく彼に恋していた。一目で惹かれて、瞬く真に夢中になった。
 だから抱かれたいと思ったのだ。
(でも敏腕経営者がどこにでもいる秘書の私に本気になる訳ないもの)
 もし金洞商会と何の関係もなかったとしても、初めから先はない関係だった。
 一夜限りの関係だからこそ成立した出来事だった。
 深みに嵌る前に気付けてよかったのだ。
(いつまでも夢を見てたら駄目だよね)
 まだ胸が痛いけれど、それは今だけのもの。
 きっと数日したら現実の忙しさに紛れて、忘れているだろうから。
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