気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 会食用に選んだレストランは、クラシカルな内装が上品で、予約した個室も大切なお客様とゆっくり食事をするのに相応しく整っていた。
 ところが副社長は乱暴に椅子に座るなり、同行している咲良をぎろりと睨んだ。
「なんだかぱっとしない店だな。もっと他によい所はなかったのか?」
 どうやら気に入らなかったようで不機嫌になってしまった。しかし、会食相手が到着すると一転、満面の笑みで席を立ち出迎える。
「原田社長、ご無沙汰しております!」
 原田部長は四十代半ばの出来るビジネスマンといった印象の男性で、副社長より一回り以上細くすらりとしている
 咲良はもちろん金洞副社長も、彼に会うのは今日で二度目だ。初対面は半年前に行われた政治資金パーティーの会場だった。
「お待たせして申し訳ありません」
「いえいえ、道が混雑していたのでしょう。ささっ、お座り下さい」
 普段は傲慢な副社長がここまで気を遣うのは、今回の取引を何としても成功させたいからだ。
 金洞商会では経営不振が続いている
 原因は主力商品である菓子の売れ行きが落ちているからで、経費削減も成果が出ず、利益率の改善に繋がらない。根本的な問題として少子化問題があるが、そんな中でもライバル企業は新たな流通システムを構築したことで業績を上げているのだとか。
 金堂商会も負けていられないと、人気メーカーとのコラボ商品を企画した。
 子供向け菓子に、次々とヒット商品を打ちだしているHARADA製のおもちゃをおまけとしてつけて集客を狙うのだ。
 これは副社長自ら指揮を執っている企画で、かなり気合を入れている。
 とは言え、金洞商会とHARADA間では取引実績がないため、簡単ではない。
 この会食は商談をする前段階。繋がりを深くするための接待のようなものだ。だから咲良は少しでも会食の雰囲気が良くなるようにと、事前に原田部長の好みをリサーチして、店とメニューを慎重に選んだ。
 残念ながら金洞副社長には不評だけれど。
 ところが、原田部長が料理を褒めると、手の平を返すように態度が変わった。
「ご満足いただけたようでらよかった!」
「料理の味はもちろん、店の雰囲気も素晴らしいですね」
「私も気に入っていましてときどき通っているのですよ。原田部長と趣味が合うようでうれしいですな!」
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