気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
でも咲良はそんな理由では気が進まない。はっきり言って不服である。
(私は好きになった人に愛されて結婚したい)
だから颯斗に対して想う気持ちが有っても、この頼みを聞くことは出来ない。
彼のような立場の人間は、いろいろなしがらみがありビジネスで信用を得る為にも既婚者という立場が必要なのだろう。
時代遅れの考えだと感じるが、取引先の経営陣は大抵咲良たちの親世代の人々だから、想像以上に既婚がステータスになる。
だから今咲良が断ったら、きっと彼は次の候補に交渉に行くことになる。
そう考えると切なくなるが、納得できないままの結婚は自分には無理だ。
短い時間で目まぐるしく思考を巡らせた咲良は、決心して颯斗を見つめた。
「ごめんなさい。私は結婚出来ません」
颯斗の顔に失望が広がり、咲良は罪悪感に襲われる。でも考えを変える気はない。
「理由を聞いてもいいか?」
「私は勘で結婚は出来ません。普通に付き合ってお互いを知り愛情とか信用を積み重ねてから結婚したいです」
「信頼関係の問題か……俺に不満が有る訳じゃない?」
颯斗の美しい瞳に見つめられ、咲良の鼓動がドクンと跳ねる。
「もちろん不満なんてありません。でも私と渡会さんでは住む世界が違うとは思っています」
バーでの会話と熱に浮かされながら抱きあった夜の記憶。ふたりの間にあるのはたったそれだけなのだ。
「それに、渡会さんはあの日、ひと言の挨拶もなくホテルを出ましたよね。私とはその場限りの関係だと考えていたからじゃないんですか?」
もし咲良を少しでも想ってくれていたら、あんな態度は取らないはずだ。思い出すと当時の悲しさが蘇りそうになり、咲良は小さく息を吐いた。
「なぜ気が変わったのか分かりませんが、私は渡会さんと関わっていきたいと思いません」
咲良の言葉が辛辣に感じたのだろうか。颯斗はそれきり黙り込んだ。
店内にはクラシカルな音楽がかかっているため、沈黙が辛いと言う程ではないが、颯斗のプライドを傷つけてしまったのかもしれないと思うと罪悪感がこみ上げてくる。
しばらくすると颯斗が気を取り直したように視線を合わせて来た。
「たしかに駒井さんの言う通り性急過ぎたな」
「はい……」
「あの日のことは申し訳なかった」
「いえ、それはもういいんです」
(私は好きになった人に愛されて結婚したい)
だから颯斗に対して想う気持ちが有っても、この頼みを聞くことは出来ない。
彼のような立場の人間は、いろいろなしがらみがありビジネスで信用を得る為にも既婚者という立場が必要なのだろう。
時代遅れの考えだと感じるが、取引先の経営陣は大抵咲良たちの親世代の人々だから、想像以上に既婚がステータスになる。
だから今咲良が断ったら、きっと彼は次の候補に交渉に行くことになる。
そう考えると切なくなるが、納得できないままの結婚は自分には無理だ。
短い時間で目まぐるしく思考を巡らせた咲良は、決心して颯斗を見つめた。
「ごめんなさい。私は結婚出来ません」
颯斗の顔に失望が広がり、咲良は罪悪感に襲われる。でも考えを変える気はない。
「理由を聞いてもいいか?」
「私は勘で結婚は出来ません。普通に付き合ってお互いを知り愛情とか信用を積み重ねてから結婚したいです」
「信頼関係の問題か……俺に不満が有る訳じゃない?」
颯斗の美しい瞳に見つめられ、咲良の鼓動がドクンと跳ねる。
「もちろん不満なんてありません。でも私と渡会さんでは住む世界が違うとは思っています」
バーでの会話と熱に浮かされながら抱きあった夜の記憶。ふたりの間にあるのはたったそれだけなのだ。
「それに、渡会さんはあの日、ひと言の挨拶もなくホテルを出ましたよね。私とはその場限りの関係だと考えていたからじゃないんですか?」
もし咲良を少しでも想ってくれていたら、あんな態度は取らないはずだ。思い出すと当時の悲しさが蘇りそうになり、咲良は小さく息を吐いた。
「なぜ気が変わったのか分かりませんが、私は渡会さんと関わっていきたいと思いません」
咲良の言葉が辛辣に感じたのだろうか。颯斗はそれきり黙り込んだ。
店内にはクラシカルな音楽がかかっているため、沈黙が辛いと言う程ではないが、颯斗のプライドを傷つけてしまったのかもしれないと思うと罪悪感がこみ上げてくる。
しばらくすると颯斗が気を取り直したように視線を合わせて来た。
「たしかに駒井さんの言う通り性急過ぎたな」
「はい……」
「あの日のことは申し訳なかった」
「いえ、それはもういいんです」