気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
颯斗は御曹司の割に気さくで、咲良がネットで検索してつくる簡単料理も美味しく食べてくれる。ときにはふたり並んでキッチンに立つこともあった。
心配していた生まれ育った環境の違いによる影響は大して感じない。
契約結婚の夫婦なので、ルームシェアといった感じだがふたりの距離は少しずつ近づいている。
そして七月二十九日の大安。咲良と颯斗はふたりで区役所を訪れ婚姻届けを提出した。
結婚式は行わず手続きだけの密やかな結婚記念日になったが、ひとつの区切りがついたのだとしみじみ感じ入った。
「結婚おめでとう」
颯斗が上機嫌でワイングラスを傾ける。
「自分で言っちゃうんですね」
咲良はくすっと笑いながら同様にグラスを手にした。
少しは記念日らしいことをしようと区役所帰りに寄ったレストランは、ホテルの高層階にあり、東京の華やかな街並みを見渡せるプロポーズにも適していそうなロマンチックな空間だ。
「嬉しいときは素直に祝うべきだろ?」
「そうですけど」
「これで咲良は俺の妻か……」
彼が咲良と呼び捨てにするようになったのは、同居してすぐだった。
お互い苗字呼びではさすがにおかしいからだが、初めて「咲良」と呼びかけられたときは、不覚にも頬を赤く染めてしまった。
「実感湧きませんか?」
「いやその逆だ。咲良は?」
「私は、婚姻届けを出した時点で結婚したんだって実感して、ちょっと胸に来るものがありましたよ」
「もしかして感動して泣きそうになってた?」
「いえ、そこまでは」
「なんだ、残念だな」
颯斗が楽しそうに目を細める。
「何にしろこれで正式に夫婦になったんだ。より一層仲よくやっていこう」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそ。何か気になることや困ったことがあったら、遠慮なく言って欲しい」
「はい、そうします。颯斗さんも何でも率直に言ってくださいね」
「ありがとう」
ふたりの間に流れる空気は穏やかで居心地がいいものだ。
「ひとつ聞いておきたいんだけど」
「はい、なんですか?」
「金洞商会を辞めたとき、何かあったのか?」
颯斗が心配そうに咲良を見つめている。
「咲良は前職について話すとき、顔が曇るんだ。嫌なことが有ったのか? 無理にとは言わないが、よかったら話して欲しい」
咲良はゴクリと息を呑んだ。
心配していた生まれ育った環境の違いによる影響は大して感じない。
契約結婚の夫婦なので、ルームシェアといった感じだがふたりの距離は少しずつ近づいている。
そして七月二十九日の大安。咲良と颯斗はふたりで区役所を訪れ婚姻届けを提出した。
結婚式は行わず手続きだけの密やかな結婚記念日になったが、ひとつの区切りがついたのだとしみじみ感じ入った。
「結婚おめでとう」
颯斗が上機嫌でワイングラスを傾ける。
「自分で言っちゃうんですね」
咲良はくすっと笑いながら同様にグラスを手にした。
少しは記念日らしいことをしようと区役所帰りに寄ったレストランは、ホテルの高層階にあり、東京の華やかな街並みを見渡せるプロポーズにも適していそうなロマンチックな空間だ。
「嬉しいときは素直に祝うべきだろ?」
「そうですけど」
「これで咲良は俺の妻か……」
彼が咲良と呼び捨てにするようになったのは、同居してすぐだった。
お互い苗字呼びではさすがにおかしいからだが、初めて「咲良」と呼びかけられたときは、不覚にも頬を赤く染めてしまった。
「実感湧きませんか?」
「いやその逆だ。咲良は?」
「私は、婚姻届けを出した時点で結婚したんだって実感して、ちょっと胸に来るものがありましたよ」
「もしかして感動して泣きそうになってた?」
「いえ、そこまでは」
「なんだ、残念だな」
颯斗が楽しそうに目を細める。
「何にしろこれで正式に夫婦になったんだ。より一層仲よくやっていこう」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそ。何か気になることや困ったことがあったら、遠慮なく言って欲しい」
「はい、そうします。颯斗さんも何でも率直に言ってくださいね」
「ありがとう」
ふたりの間に流れる空気は穏やかで居心地がいいものだ。
「ひとつ聞いておきたいんだけど」
「はい、なんですか?」
「金洞商会を辞めたとき、何かあったのか?」
颯斗が心配そうに咲良を見つめている。
「咲良は前職について話すとき、顔が曇るんだ。嫌なことが有ったのか? 無理にとは言わないが、よかったら話して欲しい」
咲良はゴクリと息を呑んだ。