気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 ローストビーフから根菜の煮物や桜エビのかきあげなど、種類が豊富なうえに盛り付けも完璧だった。ケータリングサービスを利用したと思っていたのに、手作りだったとは。
「ええ。咲良さんのお口に合うといいのだけど」
「凄い……お店に来たみたいです。お義母さまは料理上手なんですね」
 思わず漏れた言葉だが、義母もお世辞ではないと察したようで嬉しそうに頬を染めた。
「褒めて貰えて嬉しいわ。昔から料理が好きでお祝い事があると特に張り切ってしまうのよ」
 義母は上機嫌で料理を少しずつとりわけ咲良に手渡してくれた。
「ありがとうございます……わあ、すごく美味しいです」
 桜エビのかきあげを一口食べた咲良は、感嘆の声を上げた。
「よかった。沢山あるから良かったらお土産に持って帰ってね」
 義母は料理だけでなく、みなに振舞うのも好きなようだった。颯斗と義父の分も取り分けこまやかに世話を焼いている。
 咲良も手伝おうとしたが、「手伝いは次回から。今日は料理を楽しんでね」と断れてしまった。
 二年間秘書として常に上司の動向に気を遣い、先回りして動いていた咲良にとって、世話を焼かれる立場はどうにも落ち着かないものだが、楽しそうにしている義母の様子を見ると、言われた通りにしていた方がいいとも感じる。
「咲良、母に任せてやってくれ」
 様子を窺っていると颯斗がそっと耳打ちしてきた。咲良は分かったとばかりに小さく頷く。
「母は人をもてなすのが大好きなんだ。楽しそうにしてるだろ? 久々に明るい顔を見られてよかったよ」
 颯斗はほっとしたように表情を和らげる。義母は兄の見舞い相手と颯斗の問題で、心を痛めていたが、そのことを颯斗は申し訳なく感じているようだ。
(お義母様は家庭を大切にしているようだから、気まずい状況が辛かったんだろうな)
 颯斗と咲良が結婚したことで、問題が解決するといいのだけれど。
(お兄さんのお見合い相手はどんな人なんだろう)
 取引先銀行の令嬢だとは聞いたが、人柄はよく分からない。
 ただ、見合い相手の弟が気に入ったからと言って、積極的に迫る姿勢は咲良とは相いれないものだ。
(でも颯斗さんの契約結婚の目的は、その女性に諦めて貰う為だから、いずれ顔を合わすことになるかもしれない)
「颯斗、事務所の移転をしたらしいな」
 考えに沈んでいたとき、義父の声が耳に届いた。
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