気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「ああ。赤坂のツインタワーにワンフロア借りている」
「大丈夫なのか? あそこは賃料もかなりのものだろう」
 心配そうに眉を顰める義父に、颯斗は少し呆れたように言う。
「大丈夫。相変らず心配性なんだな。上手くやってるから俺の事は気にしないでいいって」
「お前は子供のころから向こう見ずなところがあるから。それに頑固だ」
 颯斗は聞き流すことにしたのか肩をすくめるだけだった。義父は諦めたのか咲良に目を向ける。
「咲良さん、問題が起きたらすぐに連絡して欲しい。颯斗を頼みます」
「はい。お任せください」
「父さん、咲良に余計な負担をかけないでくれ」
 颯斗は面白くないようだが、咲良は義両親は息子思いのよい人だと感じた。
 客観的に見ると颯斗は親の助けなど要らない一人前の経営者だけれど、親からするといつまでたっても子供なのだ。
「颯斗さん、お義父様たちに心配かけないように、ときどき伺うようにしましょうね」
「……咲良がそう言うなら」
 颯斗は渋々ながらも了承してくれた。その様子を見ていた義母が「まあ」と驚いたような声を上げる。
「颯斗でも咲良さんの言うことは素直に聞くのね」
 よほど素直じゃないと思われているのか、義母は大げさなくらい感心している。
「咲良さんは颯斗の会社で働くのかね?」
 義父が思い出したように、聞いて来た。
「はい。九月一日に入社する予定です」
「そうか。公私ともに颯斗を支えてくれる咲良さんがいて安心だな」
「前職と業界が違うのでこれから勉強していく形ですが、早く馴染めるように頑張ります」
「頼むよ」
「無理はし過ぎないでね」
 心配そうに眉を下げる義母に、颯斗がクールに答える。
「俺が咲良に無理をさせる訳ないだろ?」
「まあっ、母親には素っ気なくても、お嫁さんには優しいのね」
「母さんにだって優しくしてるだろ」
 義母は「どうだか」と言いながらも幸せそうだった。
 ほのぼのした様子に咲良もすっかりリラックスし、来たときの緊張感はすっかり抜けていた。
 和気藹々と会話を楽しんでいると、リビングに繋がる廊下から足音が聞こえてきた。義両親と颯斗が扉の方に顔を向ける。
 すりガラス扉に長身のシルエットが見えた直後、扉がゆっくり開く。
「兄さん」
 颯斗が明るい声を出した。
「遅れて申し訳ない」
 そう言って近づいて来たのは、スーツ姿の男性だった。
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