気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
咲良はトラブルを察して声をかけて来ようとしたマスターをアイコンタクトで止めつつ、女性に返事をする。
「これくらいなら落とせるから大丈夫ですよ。ちょっと待っていて下さいね」
マスターの奥さんが、カウンターと床に零れたワインを拭きとってくれている間に、咲良は足元の籠に置いていたバッグからシミ取りセットを取り出した。
「少し失礼しますね」
女性の袖にそっと触れる。
「えっ? 私は大丈夫です。それよりもあなたの方をなんとかしなくちゃ」
女性の服はアイボリーのニットだから、汚れがそれ程気にならないのだろう。
「いいえ、零したのは白ワインですよね? ワインは時間が経つと、含まれている糖分が酸化して黄色く頑固なシミになって、白系の洋服だと結構目立つんです。だから油断したら駄目なんですよ」
咲良は説明しながら、女性の腕についたシミの応急処置をする。
「あの……ありがとうございます。ご迷惑をかけただけでなく、綺麗にまでして貰ってすみません」
「たいした手間でもないので大丈夫ですよ」
「そんなこと。でもすごく手慣れてますね」
てきぱきと処理する咲良の手元を見た女性が、感心したように呟く。咲良はつい苦笑いになった。
(だって本当に手慣れてるもの)
金洞副社長の秘書になってからと言うもの、この程度のトラブルは日常茶飯事だ。
当初は彼が問題を起こす度に慌てふためいていたが、今ではすっかり慣れてしまった。副社長が起こしそうなトラブルの対処法はマスターしたし、必要と思われるものは全て用意してある。おかげで咲良の手荷物は営業部時代の二倍になり、毎日大荷物を持って出勤している。
「はい終わりました。でもこれは応急処置なので、帰宅したら早めに洗濯するかクリーニングに出した方がいいと思います」
「わあ……ありがとうございます」
女性は恐縮した様子で頭を下げる。それから咲良とは反対側の隣席をくるりと振り向いた。
「ごめんなさい颯斗さん、今日はこれで失礼します」
どうやら同行者がいたようだ。「ああ」と低く声が咲良の耳にも届く。たった一言なのに、印象的なよい声だ。
(彼女の恋人かな?)
気になったのでそっと姿を見ようとしたら、ぴたりと視線が重なり合った。咲良は思わず息を呑む。
(す、すごいイケメン!)
「これくらいなら落とせるから大丈夫ですよ。ちょっと待っていて下さいね」
マスターの奥さんが、カウンターと床に零れたワインを拭きとってくれている間に、咲良は足元の籠に置いていたバッグからシミ取りセットを取り出した。
「少し失礼しますね」
女性の袖にそっと触れる。
「えっ? 私は大丈夫です。それよりもあなたの方をなんとかしなくちゃ」
女性の服はアイボリーのニットだから、汚れがそれ程気にならないのだろう。
「いいえ、零したのは白ワインですよね? ワインは時間が経つと、含まれている糖分が酸化して黄色く頑固なシミになって、白系の洋服だと結構目立つんです。だから油断したら駄目なんですよ」
咲良は説明しながら、女性の腕についたシミの応急処置をする。
「あの……ありがとうございます。ご迷惑をかけただけでなく、綺麗にまでして貰ってすみません」
「たいした手間でもないので大丈夫ですよ」
「そんなこと。でもすごく手慣れてますね」
てきぱきと処理する咲良の手元を見た女性が、感心したように呟く。咲良はつい苦笑いになった。
(だって本当に手慣れてるもの)
金洞副社長の秘書になってからと言うもの、この程度のトラブルは日常茶飯事だ。
当初は彼が問題を起こす度に慌てふためいていたが、今ではすっかり慣れてしまった。副社長が起こしそうなトラブルの対処法はマスターしたし、必要と思われるものは全て用意してある。おかげで咲良の手荷物は営業部時代の二倍になり、毎日大荷物を持って出勤している。
「はい終わりました。でもこれは応急処置なので、帰宅したら早めに洗濯するかクリーニングに出した方がいいと思います」
「わあ……ありがとうございます」
女性は恐縮した様子で頭を下げる。それから咲良とは反対側の隣席をくるりと振り向いた。
「ごめんなさい颯斗さん、今日はこれで失礼します」
どうやら同行者がいたようだ。「ああ」と低く声が咲良の耳にも届く。たった一言なのに、印象的なよい声だ。
(彼女の恋人かな?)
気になったのでそっと姿を見ようとしたら、ぴたりと視線が重なり合った。咲良は思わず息を呑む。
(す、すごいイケメン!)